知ってるよと言われてしまったので、俺はふいに自分のなかで鎮めて沈めようと努力していた海たちがぶわりと溢れ出しそうになる気配を悟った。脳内で鳴り響いていた騒がしいノイズは物静かなバラードへと変化して、手にぎゅうと力を込めていた俺はてのひらについた爪の痕を慈しむ俺へと成り変わる。海が信じられないくらいにきらきらと輝いて、うそだと思うくらいきれいだ。ふたりの間を通り抜ける風はやけに優しい香りを魅せた。昨日までの俺の恋が、すべて今日の愛になる瞬間を確かにこの目は映しこんだのだから、もうそれは素晴らしいくらい夢に似た話だと思考は巡る。じっとり湿った額が持つ意味なんて俺自身はもちろんよく理解していたけれど、夏樹は知らないのだろうとひとりこの気持ちを匿っていたのに、それなのに夏樹はほんとうにあっさりと俺の瞳を見据えてしまった。すべて知っているかのような視線で夏樹は矢を射るけれど俺にとってはそれがすべてではなくほんのすこし、でも友達としての夏樹から見れば俺のほんのすこしはひどくすべてに酷似している。俺はそう、釣り竿を握り海と対話をするときと同じ目を夏樹に向けた。きらびやかな星だって簡単に散らせるくらいに想いを持ち寄って夏樹を見ていたんだ。それをすべて夏樹は、微笑みひとつで理解してしまう。ああ、と思った。どうして夏樹はこんなにも、俺に恋をさせるのが上手なんだろう。俺の今日までのすべてが愛になっても、明日にはまたきっと新しい恋に変わるんだろうなとひっそり脳は訴える。それくらい、それくらい鮮やかなまま夏樹はずっと俺の傍にいるんだ。たとえ遠くに行ってしまっても、いろんな想い出を俺に残して。いつだって変わらず俺の心のほとりに居座り続けるんだろう。ずるいなって思う。それと、好きだなとも想った。俺はどうしようもなく夏樹が好きで、大好きで、世界だってこんなにきれいに見えて、瞳からはあたたかい涙ばかり零れるんだから。なんだか不思議な気持ちだ。ふわふわとしているのにそこにあることだけははっきりとわかる、なにかよくわからない気持ち。わからないけど、怖くはないよ。俺の海は宙に舞って、魚みたいに空中を泳ぎ回る。ねえきれいだよ夏樹。夏樹もこんな風に世界を見てたのかな。

「バカ、なに泣いてんだよ」

はは、と優しく笑う夏樹の瞳はきらきらで、星がたくさん瞬いていたことに俺はやっと気づいた。ふわりと微笑む夏樹は、ちょっとはにかみながら「俺も好きだよ」だなんて言ったものだから、俺の世界はただただ波に満たされていくのだ。すこしのさみしさとたくさんのいとおしさに浸った俺は驚くくらいしあわせだった。もうなにもかもきらきらなんだ。
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