ちょっと前、2012年で人類が滅亡するとかなんとか言ってる映画がやってた気がする。当然そんなもの見に行く金も余裕もなかったから話の中身はまったくわからないのだが。でももしかしたら、その映画は今までのどんな予言者よりも的確に未来をうつしていたのかもしれないなあ。時期は現実のほうが少し早かったけど。2011年12月25日、世間ではカップル共が浮き足立って今日は特別だからと街中でもどこでもいちゃいちゃいちゃいちゃとハートを飛ばしまくる日。の、はずだった。だがしかし今日をもって、めでたく人類は滅亡したのである。うっさいおっさんからかわいい女までみーんな、おんなじような黒い塊になってしまった。でかい胸もきれいな脚も、もうどこを探しても見つからないのさ。それだけはもったいないことしたなと思ったけど、どうせ俺もそのうち死ぬんだからいいやと考え直した。もう誰もいないんだしやりたいことしよう。そう思い立ちとりあえず赤い世界を後にする。外に出ればとにかく霧がすごくてほぼ前が見えなかった。それに無数のシャドウがあたりをうろうろとさまよっている。それらは無視しておいて、手探り状態のまま進み続けた結果なんとかジュネスにたどり着いた。中は外よりかは薄めの霧に覆われているが、シャドウは外よりも大勢蠢いている。店内を自由に徘徊するシャドウを見て、ここはもう体裁もなんもないんだなあと悟った。というわけで食品売場にて試食コーナーのウインナーを平らげたあとにいつも買っているものより高い茶を取って一気にあおった。値が張っているくせにさほど美味くはなかった。いったんジュネスから出て、次にコンビニに入りこむ。隅に配置されたエロ本コーナーからてきとうなものを一冊引き抜いてレジに足を向け、そこに腰かけたあとページを開いた。熟女もので、どうにも母を彷彿とさせるババアばかりが見開きページを飾っていた。袋綴じを躊躇なく引き裂いても、現れるのは母に似た女の無理を感じさせる裸体。すぐさまゴミ箱に投げ捨てた。ここで早くも気持ちが冷めてしまって、何かをしようという気が失せ始める。ため息を吐きながら道路に尻をつけて、そのまま崩れるみたいに寝転がった。霧ばかりの空は、青も赤も何も描き出そうとはしない。こんななら、赤い空のが落ち着くと思考した。ああ、ソープ行こうかなあ。デリヘル頼もうかなあ。よく考えりゃ、金がなくて全然行ってない。けど女なんかもうここには一人もいなかった。俺はいまセックスがしたいのに。人類が滅亡したからだろうか、たぶん俺の中で人間の生存本能ってもんがバリバリに働いているのだろう。つまり今俺はともかくセックスがしたい。が、相手がいない。なんなら生身の人間じゃなくてダッチワイフでも全然オッケーなんだけど。でも今ネットで注文して届くわけがない。届けてくれる人がいないんだから当たり前だ。シャドウ相手は…穴でもあるならギリギリ考えるが、あれは明らかに球体でしかない。青息吐息をひとつついて、それからゆっくりと上体を起こした。部屋に帰って一番気に入ってるエロ本でも読んで元気を取り戻そうと考えたのだ。霧にもだいぶ慣れてきて、感覚でじゅうぶん歩けるようにはなった。相変わらず前はよく見えないが、体の記憶に頼ってこっちだろうと足を進ませる。ひとり家路を歩く中、2体のシャドウが寄り添うようにぴたりとくっついていた。その様子からして、もとはカップルだった奴らなのだろう、と推測する。苛立ちを覚えたところで足の先にジュース缶が当たったから、それをシャドウ2体にぶん投げておいた。まあ命中なんてせずにただ道端へ落ちていっただけだったが。しかしどうしてあんな姿になって自我を失っても愛を持ち続けていられるのか、俺には毛の先ほども理解ができない。二人は共にある運命だから、とかバカならここでほざくんだろうか。薄ら寒いと嘲笑した。運命の相手、なんてものが見つかる前にひとりになった俺には、ひどく無縁の話だ。もしいたなら、それは胸と尻がでかい女だったろうなあ。俺が運命と呼べるくらいなんだから、Fカップはあってくれなくちゃ困るよ。
見慣れた扉に鍵を差しこみ、見慣れた部屋に踏みこむ。押し入れの中から目当てのエロ本を探し出したとき、手に紙のような質のものが触れた。なんだろうかとそれを中から引き出す。ただの紙ではなく何か形を為しているうえに異様にでかく、出すのに少し時間がかかった。それでも無事になんとか引きずり出せたのたが、それの正体を見て俺は思わず口をだらしなく開けてしまった。新聞紙、で形どられた、女。を模した、等身大の人形みたいなそれ。胸と顔はやたら大きく作られていて、脚も造形がわりと凝られていた。確か少し前、あまりにも女に飢えた俺が出来心で新聞紙を手に作ったダッチワイフ。これは紛れもなくそれだ。いやあ、あの頃の僕は若かった。無駄に手の込んだつくりがそれを証明していた。けっこう自信作だったけど、使ってるうちに死ぬほど虚しくなって2日でやめたんだよなあ。完全なる黒歴史は時を超えて俺をいたたまれなさで満たしつくしたのだった。しかし今はもうこれしか縋れる処理器はないわけだ、駄器を名器に昇華してやろうじゃないか。胸もFカップを想定して作ったからかなりでかいし。さて、と僕はズボンを下ろし、ダッチワイフを抱きしめた。ゴワゴワしていてまったく柔らかくなかった。当たり前だ。キスもしておこうかと目論んだが、こいつに口を作り忘れた俺の失態がここで公に現れる。仕方がないからそのへんはすっ飛ばすことにした。俺はこのへんでなぜか笑いが止まらなくなって、ずっとげらげらげらげら笑っていた。よく考えれば、もしかしたら俺の運命の相手はこいつなのかもしれない。だってこいつは、人類が滅亡したって俺の傍にいるんだから。これを運命と呼ばずして尽くせる言葉はひとつだってありはしない。やっと見つけたよ、俺の60億分の1。こんなに近くにいやがったんだね。
窓ガラス越しに空を見る、が、なんも見えやしない。ああ世界は終わるんだろうなあ。俺が子孫をつくれないばっかりに。ざまあみろだ、じゃあなクソ世界。そう叫ぶと同時に俺とダッチワイフは白く染まった。始まりと終わりの色さ。
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