4章
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「愛してるよ」

風が吹くように言ったものだから俺は当然驚いたし自分の耳を疑った。ジュードは挨拶を交わし終えただけというような自然な佇まいを俺に見せている。二人の距離は遠くもないが近くもなかった。互いの影の先につま先がある程度。だがしかし心の距離は今のひとことでぐんと縮まったようなさらに遠ざかったような気がする。にこりと微笑むそいつの思考をほんとうに不思議なくらい量りかねているのはおそらく動揺からでもあるんだろう。しかし原因の大半は、感情を表面上に臆すことなく晒しているようで実はまったく何も読み取らせようとしないジュードの笑顔にある。穏やかなんだけれど何かが違っていた。その何かに気づけなかったのは完全なる俺のミスであり、おそらく誰を責めることもできない。表じゃあなく裏を見ろ、とバカみたいに自分に言い聞かせて生きてきたというのに、どうして俺はここでその裏を読もうとしなかったのか。ただ何か言わないと、と思いおもむろに口を開けて手探り状態のまま言葉を探したが見つからず、また口を閉じることを繰り返す。愚かそのものだ。ジュードはその澄んだようなくすんだような底の見えない瞳いっぱいに俺を映し、またひとつ微笑みを作り出した。明らかに戸惑う自分はみっともなく手に汗なんかかいてしまって、そこから何を言うこともどうすることもできなくなってしまっている。もしジュードが俺に、本気で好意を持ち合わせてくれているというのなら。おかしな話だが喜びという感情を起伏させてしまいそうだった。俺もジュードを好きだから嬉しいと感じたのか違っているのかは実のところ自分でもよくわかってない。表面上での馴れ合いを止めて、本当の気持ちをぶつけようとしてくれているのかもしれないという希望が薄らと目に見えたのがただ嬉しかった。でもじゃあ、けっきょくはどう返事をすればいいのか。俺にはわからない。わからないことだらけだ。
不意にジュードが一歩を踏み出した。地面を踏みしめるかのような、重いものだ。靴の下にはぼうっと伸びる俺の影がひとつ。踏まれた俺の影をちらと見て、ジュードはふっと笑った。そこで俺は気づく。やっとひとつわかった、これはこいつの仕返しなのだと。俺を真似ての小さな小さな復讐劇なのだとようやく。形の整った唇がそっと開く。そうして紡ぎ出した言葉は、ああほら、やっぱり騙された!


嘘だよ(笑)
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