「しらねーの」
「え、」
「息継ぎのしかた」

息と声を6:4で絞り出す彼はおとこのくせに僕の欲情を煽るようになまめかしかった。彼と僕を繋ぐ糸がそのすこし開いた薄い唇からつうっと伸びていて、でもすぐにぷっつり切れてしまう。一抹のさみしさを抱えながら僕は彼の目をみた。細められた深い赤が燃えるように揺らいでいる。アルヴィンは僕の目を見てはくれない。それが照れくさいからだってわかっているから、特に何も言いはしないけれど。

「優等生、そんなんじゃ女に笑われるぞ」
「う、るさいなあ。しかたないでしょ、はじめて、なんだ、から」

言いながら赤く染まるのは僕の頬であり彼の頬でもあり。そう、ひととこんなに激しく求めあうようなキスをしたのはこれがはじめてだ。だから息継ぎのしかたも、離れた唇が置き去りにしていくぽってりとした熱も、交じりあった視線から作り出される言いようのない恥ずかしさも知らなかった。彼のてのひらが持った熱の温度だって、いまはじめて知った。
上がる息は僕が何も知らない子供だという証拠だ。彼は気怠げに吐息を漏らしているけれど、僕のように息を乱したりしている様子はあまり窺えない。僕の知らないことを知っていて、そして何度も繰り返しているという証明だ。なんだかすこし憎たらしくて、眉間にしわなんて寄せてみちゃったりする。こういうところも僕はほんとうに子供だ。

「練習、するか」
「っ、え」

もう一度ふたりの距離を完全に埋めようと近づいてくる顔。またあの溶けるような劣情を唇と舌に授けるという事実に湧く生唾と高鳴る胸はまるで僕のものじゃないみたいだ。汗ばむ手で平静を手繰り寄せようともがいてみたものの、あえなく失敗。緊張に強張る体が和らぐことはなかった。

「おい」

鼻と鼻が触れるところまで近づいたアルヴィンの顔がほんのすこし焦りに捕らわれる。吐息がかかってくすぐったい。なに、と言葉少なに問うと、視線を逸らして頬を赤らめる彼の姿と、目閉じろよ、というつぶやき。ああ、そういえばそうだった。余裕をなくしたあかいひとみがうつくしくて、瞼を閉じることを忘れていた。うん、小さく頷いて目を伏せれば、唇に彼のそれが重ねられる。いまから僕はもういちど溶ける。
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