寝台に座る彼の頬に手を伸ばすと、その肩がかすかに揺れた。深い夕焼けのような色の瞳がこちらをじっと見つめる。拒むようでいて縋るようなそれに吸い込まれるように口づけをすれば、彼の唇の隙間からわずかな吐息が漏れた。舌を差し入れながらその肩を押し、敷布へと倒れさせる。白に散る彼の赤ももうずいぶん見慣れたものだ。
「なんか、かわいくなくなっちまいましたねえ、あんた」
しばらく舌を絡め合わせたのち、ようやく口を離したところでシルヴァンがそう言った。それはどういう、と問いかけてみるとその瞳が薄く細められる。
「最初はもっとついばむ感じの、ゆるーいやつしかしてこなかったのになあと」
「それはお前に教えられたからだ」
「おっと。俺のせいなんです?」
くく、と可笑しそうに笑う男の頬はわずかに赤く色づいている。普段と違い寛いだ彼の格好はこの部屋にずいぶん馴染んでいて、今まで何度も交わしたこの行為を象徴するように敷布に溶け込んでいた。露わにされている首筋のあたりに潜り込み、そこに唇を這わせる。頭上から聞こえていた機嫌良さげな笑い声は少しずつ小さくなり、代わりに低くざらついた吐息だけがその口から零れていく。押し殺すようなそれは欲望の契機としてむしろより大きく耳に響いた。なんとなく歯を首筋に立ててみると、彼の体がびくりと動く。
「ちょ、噛むのはやめてくださいよ」
困惑をはらんだ声にそう静止されたので、大人しく歯を立てるのをやめ「すまない」と告げる。男の唇からは輪郭のぶれた嘆息がそろりと出ていった。まったくもう、と不満気に言われる一言にはしかし強い拒絶は表れていない。
ふと、前にもこんなことがあったのを思い出した。まだこういった関係になって間もなかった頃、同じようなことをした自分に彼は今のように静止の言葉を口にした。しかし、前はもっと強く拒絶されたように思う。確か「女の子に何か尋ねられたら困る」などと言っていたはずだ。……そういえば近頃、彼が女性と逢瀬を重ねているところをあまり目撃しない。
「最近女性を部屋に呼んでいるところを見ないな」
「……は?」
「前は頻繁にそういうところを見かけたが」
顔を上げて彼を見ると、その眉間には皺が寄せられていた。そのまま、また唐突ですねえ、と呆れたように呟きながら濡れた眼差しをこちらに向ける。
「確かにここ最近は女の子を部屋には呼んでませんよ」
「何かあったのか」
「何かって、あんたなあ……」
今日何度目かのため息を逃がして、シルヴァンは瞳にじっとこちらを映す。やがて敷布をゆるく握っていた手が伸びてきて、そのまま頬に触れてきた。
「わかりません?」
瞳の奥の燃えるような熱は静かにこちらの網膜を炙ってくる。吐く息の熱さまですべて、彼の感情を模しているように思えた。ねえ、と誘うようにも甘えるようにも聞こえる声色に鼓膜を小突かれる。
「あんたのせいですよ」
「……そうなのか?」
言うと、シルヴァンは楽しそうに声をあげて笑った。「いやあまったく性質が悪い」とからかうような口調で零しながら、口元を三日月型に歪めている。頬に添えられた両手がゆっくりと横に滑り、耳の端を軽く引っ掻いてきた。うすく光る睫毛が揺れる様を静かに見つめる。
「責任とってもらわないと困りますよ。先生」
舌に舐めあげられた唇は艶をもって光った。髪を撫でる指は緩慢なぬくもりを与えてくる。何かを言う暇もなく口付けをされ、そこから先にはもう言葉はなかった。
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