これの続き
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「あのときの師匠すごかったですよね」
「……何の話をしてるのかな、モブくん」
わかっているだろうに師匠は知らないふりをしながら新聞で表情を隠していた。最近わかってきたけど、この人は照れているとき頑なに顔を僕に見せようとしない。
「いや、僕に告白してくれたときですよ。すごかったなあって思って」
「あー知らん知らん。酒飲みすぎたら記憶なくなるからなー、まったく覚えてないな」
「僕、大人があんなに泣いてるところってあのとき初めて見ました」
「なあもうこの話やめない?」
新聞を掴む手が小刻みに震えだしている。たぶん今顔は真っ赤なんだろう。
「というか何回も言っただろ。あのときは周辺にスギ花粉が大量発生してたんだよ。そりゃ涙も鼻水もダバダバ出るに決まってる」
「あれ夏でしたけど」
「異常発生だろう。最近の地球は規格外なことが多いからな」
半分聞き流しながら窓のあたりを眺める。事務所に差す夕日が師匠の頭を照らして、薄い髪の色とオレンジが綺麗に混ざっていた。
「……言わせてもらうがな、モブよ。そんな涙と鼻水とまみれのおっさんの告白を受け入れたお前も大概すごい奴だぞ」
ばさ、と新聞を持ち直しながら師匠がそうつぶやく。僕はお茶をすすりながら、脳裏に焼き付いているあの日の記憶をまた丁寧になぞってみた。街灯から外れた暗い道の端、師匠のありえないくらい震えている手、たいへんなことになってしまっている顔、ぎりぎり聞き取れた小さな声の告白。すごいと言われても、あれは仕方がないと思う。
「あんなにかっこ悪い師匠見たら好きにもなりますよ」
「……え?……お前の感覚がわからん」
「それより髪の毛さわってもいいですか?夕日に当たってきれいだから」
「自由かよ、おい」
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