「あら騎士様、とってもきれいな目の色ね」
ダングレストの酒場で久々にユーリと飲んでいたとき、隣の席の女性が不意に僕にそう声をかけてきた。ありがとうございます、と礼を言うと『こっちの席に来ない?』と言われウインクをされたがやんわりとそれを断る。
「行けばよかったんじゃねえか、キレーな目の騎士様」
「からかわないでくれ」
ユーリはいやに上機嫌そうな様子で酒をぐいとあおる。僕がこうして女性に声をかけられるたび、なぜかユーリはいつも機嫌が良くなる。というかやたらににやついている。きっとからかう種ができたと思って面白がっているのだろう。
「しかしお前、昔から下町でもよく褒められてたよな。空色の綺麗な目だとか言われて」
「そうだったかな」
「そうだったよ」
ふ、と小さく笑いながらユーリはグラスをまた傾ける。水滴が底から垂れて机の木に染みを作っていた。それを眺めながら僕も自分の酒に口をつける。
「羨ましいね。オレのはただ真っ黒いだけだからな、空色とはてんで反対だ」
相変わらずからかうような口調でユーリはそう呟き、彼いわく『真っ黒いだけ』の目は静かに伏せられた。睫毛が虹彩に影を落とし、より深い黒を生み出している。壁に提げられたランタンの橙はその完璧な黒に吸い込まれていた。きっと僕の瞳の色を混ぜても少しも染まりはしないのだろう。彼に見つめられるたびそう考える、昔からずっと。だから『真っ黒いだけ』とはあまり考えたことがなかった。
「僕は君の目のほうが綺麗だと思う」
「あ?」
「何にも染まらないのが夜のようで、……夜も言ってしまえば空色だ。それに光が当たると星空にもなる。君の目には一等星がよく光っている」
言いながら隣の彼の瞳をじっくりと観察する。丸められてより輝かしく黒を際立たせているそこに、確かに僕が映っている。ああ、いま星も散った。
「……なんで唐突に口説かれてんだ?オレは」
しばらく僕を見つめていたユーリが、やがてそう口を開いた。その表情には複雑そうな色が広がっている。そこで僕はようやく自分の言った言葉の妙な響き方に気づいた。いちおう添えておくけれど、もちろん口説いたつもりなどない。
「妙な言い方をしないでくれ!そういうつもりじゃない」
「いや、なかなかの殺し文句だったぜフレン。いつそんなの覚えた?しかも酒場で口説くってことは、当然お持ち帰りしてくれんだよな?」
「また君は面白がって……!」
今回ばっかりはお前が悪い、そう言ってユーリは実に愉快そうに笑い続ける。その間も彼の夜には星が光り輝いていたので、うまく反論もできないままに僕はただ顔を熱くすることしかできなかった。
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