風に乗ってあいつの藍色の髪がひらひら揺れている。岩場の上に身軽に飛び乗るとその目があたしをすっと見下ろした。
「かわいいつむじね」
「うっさい」
「ふふ。つれないのね」
優しくされないと傷ついてしまうわ、なんてわざとらしく嘆くような声を出してまつげを伏せている。これくらいで傷つくようなタマじゃないでしょ、あんた。むしろ楽しんでるように見える。
この女はいつもそう、悲しいと言いながら笑うし嬉しいと言いながら憂鬱そうに遠くを見つめる。何考えてるんだから全然読めない、言葉と態度が合致しない。あたしに対して向ける好意的な言葉たちもどこかに嘘が混じってるのかもしれない。でも検証なんてするすべはない。不確かなものは嫌いなのよ。こいつもきっとそれを知ってるのに、いや知ってるからこそあたしにこんな態度を取り続けるんだろう。青空に反した色の目が楽しげに細められる。ちょっとだけ、魔導器の光に似てる。
「あなたもこっちに来ない?」
ジュディスはそう言いながら髪を長い耳にかけた。全部お見通しみたいに歪められた薄い赤色、……ああそれがホントに魔導器だったらどんなに楽か!
さっき言ったようにあたしは不確かなものが大嫌いだ。オバケだまじないだってのが嫌い、公式を導き出せないものは物質とは言えない。でもこいつは確かに生物だし今この場所に存在しているのだ。いるのに解らない、公式に当てはめることも解析分析することもできない。掴もうとすれば離れてくのに諦めようとしたら隣に立ってる。非科学非論理非合理、不可思議不条理不鮮明!あんたなんなの、理解不能よ!
「ねえ」
思考の渦はいつの間にか言葉を精製した。口を突いていつの間にか出たそれはあいつの鼓膜に急ぐ。
「なにかしら」
「あたし、あんたのこと研究する」
これも無意識からの言葉。ジュディスは一瞬目を丸くして、それからまたいつもどおりの顔で笑った。何考えてるんだか解らない笑顔。でも、そこに浮かんでるのがマイナスの感情じゃないことだけはなんとなくわかってしまった。……『なんとなく』なんて大嫌いな単語だけど。
「あら。嬉しいわね」
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