とある深夜。なかなか寝つけずにリビングでひとり過ごしていると、数十分前にお休みになられたはずの提督がゆっくりと寝室から現れた。『こんばんは』とのんびり告げながらぼくに微笑んだ提督はなぜ起きているのかをこちらに尋ね、つい正直に眠れないことを告白してしまう。すると、思いもよらない言葉がぽんとその口から投げられた。
「なら、私の寝室においで」
眠くなるまで私の話を聞いていてくれ、と提督はおっしゃる。でももう小さな子供でもないのに一緒に眠るだなんておかしくはないだろうか。そう思い最初は断ったのだが、そうかい残念だ、なんて言ってため息をつかれてしまってはもう首を縦に振る他に手はなかった。
リビングの明かりを消し、提督の後について寝室へとお邪魔する。先に布団に入った彼はぼくの分のスペースを開け、シーツを軽く叩きながら『おいで』と視線で告げてくださった。やっぱり恥ずかしいです、なんて今さら口にしてももう遅い。
「ええと、お邪魔します」
「うん、どうぞ」
おそるおそるベッドに上がり隣に横たわる。いざこうしてみると思ったより近くに提督の顔があって、なんだか落ち着かない気持ちになってしまった。その睫毛が瞬きのたびに揺れる様すらよく見えるのだから本当にとんでもない近さだ。提督は掛け布団をぼくの肩にかぶさるように引き上げなおしながら楽しそうに笑う。
「さて何を話すか。とりあえず怪談話なんかはどうだい?昼に本で読んでいたんだが」
「……眠る前にするには不向きな気もしますけど、お話してくださるなら是非」
そう返事をすると、提督は目を細めて頷きをひとつ。それからゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
怪談話の真偽の程は差し置いて、どうしてそういった話が生まれるに至ったかという観点で話は盛り上がりを見せた。年代によって内容にも傾向というものが見えるのでなかなか興味深い。しばらく二人であらゆる考察を検証し合っていたが、やがて考え疲れた頭は少しずつ睡魔をぼくのほうへと運んできた。瞼を閉じる直前、提督は穏やかな声でこうおっしゃる。
「また眠れなくなったらおいで。私も暖が取れて助かる」
お前はぬくいね、と呟いた提督がぼくの頬をつつくのがわかる。それがなんだか心地よくて、そのままゆるやかに眠りについた。

あんなに怪談話をしたのにも関わらず夢見は存外悪くはならなかった。詳しくは覚えていないけれど、夢の中でヤン提督が笑っていたことは覚えている。いつもどおり朝食の支度をして、七時三十分に提督の寝室もとい昨夜のぼくの寝床へと赴く。お決まりの朝の応酬を終えたのちに「昨日はすみませんでした」と告げると、提督は眠たげな目をしながらも明るく笑った。
「いいさ、ゆうべは冷え込んだから助かった。またお願いしたいくらいだね」
そう言って彼は大きなあくびを一つする。しかしぼくは知っているのだ、ぼくに布団を譲るあまり外気に晒されていた提督の右肩を。だってぼくは今日、あなたのくしゃみで起きたんですよ。
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