掴んだ手は昔と変わらず子供体温、しかし顔と体だけはずいぶん大人びてしまった俺の"古傷"は不思議そうにこっちに振り向いた。アルヴィン?と戸惑いながらお前は俺の名前を呼ぶが、咄嗟に取った自分の行動に一番思考が追いついていないのは俺本人だ。引き止めたからってどうするんだよ、何も考えてねーよ、何言えばいいんだよ!
「あのー、アルヴィン。わたし人待たせてるから……」
そうである、こいつ、レイアは今から最近出来た彼氏様とやらに会いに行くのである。死ぬ思いでジュードへの想いを吹っ切ってやっと見つけた新たな門出だ、俺だってそりゃあ応援しているに決まっていた。決まってるのに、じゃあなんだよこの手は。無数の言葉が脳を巡っては霧散していく。俺はレイアのことが好きなのか?知るかそんなこと。万が一好きだとしても、一生消えない傷を残した俺にこいつを引き止める権利なんかあるはずがない。じゃあ早く離せばいい、馬鹿なことばっかりしてる場合じゃない。俺はレイアの重荷だ。もう一生アルヴィンくんなんて呼ばれないことも分かっているはずだった。
「ねえアルヴィン、どうしたの。すごい難しい顔してるけど……あ!もしかしてガイアスの真似?うわー似てない!あんまり外でやらないほうがいいよ」
勝手にバカバカしい方向に話を進めているレイアに返す言葉はやはり見つからない。頭が爆発しそうだ。
なあ、死んだ母さんが夢に出るんだよ。学校帰りの5歳の俺の手を引く母さんが「好きな子できた?」なんて茶化しながら訊いてくる。まだ目尻に皺のない母さんの顔を見ながら俺はなんて答えたらいいのか考え込んで、そのまま何も答えずに目が覚めちまうんだ。たまにそれは母さんじゃなくプレザで、その時の俺は26歳で、でもあいつも母さんと同じことを訊いてくる。「アルフレド、好きな子できた?」なあなんて答えれば正解なんだ。わからない、でも俺の脳裏にはお前の顔が浮かぶんだよ。胸の中がもうぐちゃぐちゃだ。
「い」
情けなく輪郭の震えた一文字がようやく口から飛び出した。怪訝そうに俺を見つめるレイアの目は純朴に光っている。手汗がヤバいぜ、申し訳ないとは思ってるよ。でも今から言うことはもっと最悪だ。
「行くな」
馬鹿なことをしているという自覚がデカすぎて、半分笑いながらそう言ってしまった。さっきまであんなに騒がしかったレイアは静かに目を丸くする。なんか喋ってくれりゃいいのに、早く振り解いてくれりゃいいのにな。お前はそんなことしないってわかってるから、好きになったんだろうな。時間なんか今すぐ止まっちまえばいいと思っている俺の意思とは裏腹に、遠くのほうで夕刻を告げる鐘が大きく鳴った。
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