「おまえ最近僕じゃなくて俺って言うよな」

チャーハンを掬い上げようとしたスプーンの動きが止まった。バニーは、え、とうわずった間抜けな声をあげる。おいおい笑われちゃうぞハンサムくんと内心で苦笑しながら俺の分のチャーハンを口に放りこんだ。口内で海老が踊る。うん、美味い。相棒の料理の腕が上がっている事実を米粒と共に噛みしめた。

「い、言ってません」

動揺を露わにしながらバニーが言葉を返してくる。言ってませんと言われても、言ってるものは言ってるのだ。たとえば肌寒い朝や熱っぽい夜、無意識のうちにバニーは意識の奥底から言葉を引き上げる。虎徹さん、俺より早く起きてたんですか、とか。虎徹さん、俺のどこが好きですか、とか。たまに意図的にそう言ってるんだろうかとも思ったりしたが、今のこいつの反応を見る限りやっぱり無意識で間違いないらしい。

「おまえが気づいてないだけだって」
「いやでも俺ほんとうに言った覚えが」
「あ、ほら言った」
「えっ、あっ」

かあっと頬を紅潮させてわたわたと口を押さえるバニー。きれいな手からスプーンがすり抜けた。皿へと落下したスプーンは皿に受け止められ派手な金属音を辺りに響かせる。

「なんでそんな慌てんだよ。べつにいいじゃねえか」
「いえ、でもだって、完全に無意識だったので…は、恥ずかしくって…今まで一人のときしか言ってなかったのに」

バニーは赤い顔をしたまま右手の人差し指に髪をくるくると巻きつける。ふうんと小さく呟きながらその女みたいな癖を見つめていた。ところでバニー、おまえが無意識を発動させるのは、俺の前でだけなんだけど。それも気づいてない、だろうなあ。考えて、思わず口元が緩んだ。本人さえ意識できない間に開かれていく心に、どうしようもなく喜んでしまうのは仕方ないことだろう。ああどんどん可愛くなっていく。

「ああもう…」
「んな落ちこむなよお」


意識するひとしないひと
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