細い腕をしっかりと掴んで床の上を慎重に引きずっていく。王馬の体が通りすぎるたび、床に作られる血痕の道は従順に事件の爪痕をこの場に刻んでいった。王馬はじっと遠くを見つめている。じわじわと回っているだろう毒のせいでもう喋ることも困難になり始めているのかもしれない。オレに体を預けながらいつもの減らず口をぴっちりと閉じている姿は夢か何かのように非現実的なまま、いびつなままでそこにあった。まあ、非現実って言葉はここに来てからずっと頭の片隅に居座っているが。何もかも現実味の欠けた、悪夢すら超えた確かな現実。オレもこいつも終一も、誰も彼もそいつに抗ってここまで来た。多くのことを振り返りながら、王馬の腕を強く握り直す。下から小さく「痛いなあ」と抗議する声には震えが混ざっていた。
機械の光は何もかもを影にする。王馬の顔や体、王馬の腕を掴むオレの手は光が当たっていない部分に濃く影を作り闇ばかり生み出していた。その白い服が床に擦れる音と、かすかに浅い息、それ以外の雑音は存在すらしちゃあいない。王馬のたまに呟くふざけた一言は格納庫内によく響いた。
「もうちょっとゆるく掴んでよ」
「あー苦し、もう死にそう」
「ねえ百田ちゃん、どこ見てるの」
オレは返事を寄越さないまま王馬の体を引きずる。そのあいだ、思っていた何倍もこいつの腕が細いことを、ただひたすら手のひらに覚えさせていた。
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