残暑がずいぶん厳しくてぼくらは途方に暮れていた。ろくに涼む場所もない。大学の内部ではよく風の通る席を皆熱心に取り合って、結局より体温を上げる始末になっている。諦めて外に出てみても木陰はすっかり満員だった。汗が目に入りそうだ。ぼくの先を歩く亜双義も鬱陶しそうにハチマキを擦っている。外せばいいのに。べたついて気持ち悪いのではないかしら。
いい木陰にもいい風にも巡り会えず、とうとうくたびれたぼくは足を止めて空を見上げた。大きな雲が白く天へ伸びている。眩しいほど濃い青との対比は見事とすら言えるものだった。
「面白いくらい夏だなあ……」
「……何だそれは」
空を指差すことによって、こちらに振り返った亜双義の視線を上へ誘導する。亜双義は静かに入道雲を見つめていた。全力の夏がぼくら人間を威圧する。
「いっそ腹が立つほど青いな」
「本当にな」
運良く氷屋さんでも通ってはくれないだろうか、と考えながら手で顔を仰ぐ。亜双義が方向を変えてまた歩き始めたので、のろのろと後ろに続いた。蝉の騒がしい声がより暑さを増幅させている気がする。太陽は今ちょうど一番高い場所でぼくらを見下ろしていた。こんな日でも目の前のハチマキはひらひらと軽快になびいているものだから少し可笑しい。赤がぼくに向かって踊っている、ように見える。いよいよ頭が茹だったか、と考えながら、ほぼ無意識にそれに手を伸ばしていた。ひとところに定まらないハチマキを指で追って、何となく、まとめて掴む。亜双義の足がピタと止まった。やがてゆっくりとこっちに振り返ったので、二本の赤を解放する。
「何の真似だ」
「ああ、いや」
何か言い訳を考えようとしたけれど、うまく頭が回らなかった。苦笑しつつごめんと呟けば怪訝そうにその顔が歪む。その顎に流れた汗が一つ、地面に落ちていった。
「行くぞ」
ああ、と返事をしてまた歩き出す。揺れるハチマキの向こうで亜双義のうなじに汗が光っていて、やけに眩しかった。目を上に逸らしてみてもやっぱり太陽と青空が眩しい。参ったぼくは静かに地面に視線を落とした。その頃はまだ、こういう何気無いことにすら永遠が潜んでいるだなんて知る由もなかった。青い夏が終わっていく。
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