真夜中、双葉からチャットが届いた。「近所の公園にて待つ」というシンプルな文面だ。まず真夜中に女の子が一人で出歩いているという事実に卒倒しそうになったし、「近所の公園」といういやにアバウトな説明もどうかと感じる。脳内を必死でまさぐり公園の目処をつけ、モルガナを起こさないようにベッドから出た。支度をしてルブランを出る。予想どおり外は寒く、厚着した自分を褒めてやりたいと思った。目指すは公園だ。とりあえず、双葉を見つけたらうんと叱ってやらなければならない。
小さな公園に入ると砂場のあたりに人影が見えた。当たり、と胸中で呟きながらそこへと近づいていく。双葉は俺に気がついたかと思えば、そのクレオパトラのような服のままくるりと一回転した。そして一言。
「よ!」
「……どこから突っ込もうかなあ」
まずその服、恐らくこの現実世界で双葉は持っていないはずだ。だってそれはあの砂漠のパレス、双葉のパレスで認知の双葉が着ていた服なのだから。白い服の裾に砂がついてしまっている。
「見て見てジョーカー、ピラミッド」
双葉は足元を指差している。言われるがまま視線を下に向けると、そこには砂で作ったいびつなピラミッドがあった。今にも崩れそうである。第一ピラミッドと名乗るにしては先端などとても丸かった。いらないだろ双葉、だってお前の真後ろにでかいのがひとつあるじゃないか、ピラミッド。スフィンクスだってある。あと来る途中に見たのだが公園の横に砂漠の街が出来ていた。またパレスが出来たのか、と考えたがおそらく違う。恐らくもっともっと抽象的で形のないものだ。
「これは俺の夢?それとも双葉の夢かな」
問いかけると、双葉はにっこりと花が咲くように笑った。そして両手でサムズアップ。
「わたしだ!」
「お前だったのか」
「いひひ」
歯を見せて笑う双葉はまたくるりと回る。ずいぶん上機嫌だ。彼女はそのままピラミッドのほうへと駆けていったので、俺もゆっくりとそれを追う。
「懐かしいだろ、これ」
「この中の仕掛けややこしかったなあ」
「当たり前だ!無理ゲー仕様だったからな」
言って、双葉はピラミッドを見上げる。星空に向かってそびえる三角形はうず高く上を目指している。これはかつての双葉の檻だった。一生ここに囚われて死ぬのだと隣にいるこの子は言ったのだ。
静かだった双葉がふいに足を踏み出し、ピラミッドの横に並んだ。大きな両目が俺をじっと見つめる。そして照れくさそうに笑った。
「でも、みんなが攻略してくれた」
その目元がかすかに滲んでいる。言葉尻は震えていた。夜風が双葉の明るいオレンジを揺らす。もうこのピラミッドには固く閉じた扉も偽物の母親も存在しない。彼女は砂漠を抜けたのだ。俺達はそのきっかけを作り出しただけで、怒ったのも戦ったのも紛れもなく双葉だった。
「綺麗だな、双葉」
呟くように言うと、彼女の頬が赤く染まった。耳まで赤くなっている。可愛いと畳み掛けると全速力でこちらに走ってきて俺のみぞおちを殴った。夢にも痛覚はあるのか、知らなかった。


朝陽が瞼を刺し、夢から覚めたことを知る。身支度を済ませてから一階に下りるとコーヒーの匂いが鼻をくすぐった。
「起きたか」
マスターがいつものようにコーヒーを注いでぶっきらぼうな挨拶を投げる。おはようございますと返事をした時、カウンター席に双葉が座っていることに気がついた。よ、と双葉が片手を上げるので俺も片手を上げる。
「カレー出すから待ってろ」
「ありがとうございます」
マスターは俺の朝飯を入れにコンロの方へ体を向けた。すると双葉が俺に手招きをする。素直に隣に座ると、今度は耳を貸せと小声で言われた。耳を双葉に寄せる。彼女は顔を近づけ、俺に囁いた。
「また逢いにいってやるからな、カレシ!」
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