暑いな、と言って亜双義がシャツの釦を一つ外した。今日はそんなに暑いだろうか、と空いた胸元から覗く肌色を横目に見ながらぼんやり考える。縁側から見上げる空はそれなりの晴天で、たまに季節の先陣を切るように秋風が頬を撫でていった。もう変わり目を気にしなければならない頃合いなのか、歳を重ねるにつれ一年の経つのがどんどん早くなっていく。
ぼくと同じく空を見ていた亜双義はおもむろに鉢巻を外して、丁寧に畳むと傍らにそれをそうっと置いた。露わになった額に自然と視線が向かう。なまぬるい風が吹いて、揃った髪がふわりと横に流れた。それだけで様になるのだから狡い男だ。
「今日は珍しく家の者が全員留守でな。夕飯をどうしようかと考えているところだ」
「へえ、そうなのか」
道理で先刻から物音ひとつしないはずだ。ただ静けさだけが横たわるこの家はずいぶんと過ごしやすい。しかし此処に居座りつづけている訳にもいかないし、夕方にはおいとましようかなと思考しながら大きく伸びをした。そこで、亜双義の肩と自分のそれが触れあう。意識してみればやけに近い距離だ。よく隣にいると言っても普段はここまで近くはない。距離を取ろうかと目を横に向けると、亜双義と視線がばちりとかち合った。言葉こそないけれど、その眼差しは口よりも雄弁かつ明快に物を語っている。いつもより多い肌の色と静けさ、おまけにその熱量を宛がわれ、ついに事の次第に感づいたぼくは思わず顔を火照らせた。
「もしかしてこれ、据え膳なのか」
「ようやく気づいたか」
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