まずぼくと亜双義は男女という性別の垣根を越えた親友であることに間違いないのだが、だとしたらこの状況はいったいなんなのだろう。胸にサラシを巻いただけの姿の亜双義がぼくにのしかかって全身を密着させている。柔い感触は、特にその豊満な部分の感触はぼくの思考をこの現実から逃避することを一秒たりとも許しはしなかった。
「あそ、亜双義」
「何だ」
「その、離れてもらっても良いかな」
亜双義はとんでもない至近距離でぼくの顔をじっと見つめてくる。鋭い熱視線に網膜が焼かれそうで、目を合わすこともできず視線をうろうろとあたりにさ迷わせる他ない。しかし袋の鼠と形容しても差し支えないほどのぼくの困窮ぶりを前にしても、亜双義が密着した体を離してくれることはなかった。それどころか二つの膨らみを煽るように押しつけてきて、ぼくは思わずきつく目を閉じる。
部屋の戸を叩きもせずうっかり開けてしまったのはぼくだった。亜双義、酒持ってきたけど、と亜双義の部屋の扉を開けると、そこにはこのサラシのみ身に纏った格好の亜双義が座っていたのだ。着替え中だったのかと思い慌てて戸を閉めようとしたけれど、何故か制止され部屋の中に引きずり込まれて、挙げ句の果てに押し倒されて今に至る。亜双義の意図がまったくもってわからないのでぼくはどうすることも出来なかった。いったいぼくは何をされようと、させられようとしているのか。考えようとしても慣れない感触に思考を奪われ邪魔をされてしまう。
というかあまり意識しないようにしていたけれど、亜双義、下、裸なのではないか。一度そこに気づいてしまうともう駄目だった。ちょうど太腿のあたりに在る何かの存在が着実にぼくの守るべきものを削ぎ落とそうと駆り立ててくる。気づくな、忘れろと頭の中で何度も何度も呟いた。
「成歩堂」
亜双義が吐息まじりにぼくを呼ぶ。畳に貼り付けて動かせずにいたぼくの手に亜双義の手が覆い被せられて、指先で甲をなぞられた。手のひらに汗が滲む。
「触ってみろ」
その言葉の意味を吟味する前に畳から手が剥がされ、亜双義に持ち上げられる。恐る恐る視線をそちらに向けると、ぼくの手は亜双義によってその双丘へ導かれようとしていた。慌てて手に力を入れて動きを止める。面白くなさそうに眉をしかめる亜双義にまとまらない言葉たちを投げた。
「おまえ、よ……嫁入り前に、こんなッ……もっと、その、自分の体を大事にしないと……!」
「ほう」
冷ややかな眼差しで見下ろされ、どうして良いのかわからなくなる。視線を落とすと胸の谷間が視界に入ってしまい、さらに逸らせども肌色ばかりが目に映る。亜双義は嘆息し、「自分の体は適切に扱っているつもりだ」と呟いた。何処がだよと反論すると、意地悪げに口の端を上げる。
「とっておきを使ってやっている、という事だ。今日は最初からこのつもりでキサマを部屋に呼んだ」
「……な、」
発そうとした言葉を遮るかのように亜双義はぼくの手を自らの体に引き寄せた。結果、一瞬この世の物なのかと疑うほどに柔らかい物体に手のひらがぶつかる。布越しではあるがその布もそこまで分厚いものではないから、乳房は勿論先端の感触までこちらに伝わってきた。あ、とかいや、とか意味のない文字を口にしながら手を離そうとするものの、亜双義に手首を掴まれているせいで離すことができない。むしろ指がもがいたことで胸が手の中で形を変えるのがはっきりとわかってしまう。どうしてこんなに柔らかいんだと狼狽えている間に、下肢のあたりでいわゆる兆しが現れ始めた。駄目だ、今そんな事になるわけにはいかない、ぼくと亜双義は友人なのだから。考えながら、必死に理性を繋ぎ止めようと脳内で画策する。無心だ無心、寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子、「……ん」
胸を掴む手に力が入ってしまったのか、亜双義がぴくりと動いてやたらに甘く短い声を出した。長く濃い睫毛がそっと震える、それを間近で見た。見てしまった。本能に絡みつくような亜双義の視線が、何かに気づいたように下を見る。その後、愉快だという感情を隠しもせずににやりと笑った。
「やる気になったらしいな」
羞恥と罪悪感でどんどん紅潮していくぼくの頬に口づけが降る。「可愛がってやる」と微笑む表情、完ぺきに悪女の浮かべるそれではないか。
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