中学二年生の夏の日、前の席のかっちゃんのシャツが透けていて、白い背中にぼんやりとブラジャーの形が浮き出ていた。色はシンプルな水色で、模様もレースも何もなかった。けれど、スポーツタイプではない。僕達男子の連想する、ちゃんとしたブラジャーの形だった。僕は何だか胸の中心がぽっかりと空いてそこから風が吹き抜けていくような、虚脱のような諦めのような気持ちが自分の心をゆっくりと蝕んでいくのを感じていた。ずっと「かっちゃん」のままだと思っていたかっちゃんは、やっぱりれっきとした女の子という体を持っている。肩だって狭いし手だって男に比べれば小さい。昔はかっちゃんのほうが高かった背も、今は同じくらいになっている。このまま僕が大きくなればそのうち僕はかっちゃんに抵抗できるようになって、かっちゃんを捩じ伏せられるようになるのかもしれない。僕は男に生まれて、かっちゃんは女に生まれた。かっちゃんはそれに苛立ち始めているだろうか。
僕が成長してかっちゃんより力が強くなったら、かっちゃんはかっちゃんのままではいられない。僕より強いかっちゃんは、僕の未来に必ずしも存在しつづけるとは限らない。僕のヒーローを、僕はいつか殺すのかもしれない。それに気がついた瞬間が今だった。かっちゃんは頬杖をついてノートを取っている。僕は悲壮すら抱きながら彼女の背中をずっと見詰めていた。

帰り道、少し先にかっちゃんが歩いている。家が同じ方向だから悲劇的にも帰りが一緒になることはよくあった。かっちゃんは僕に気がついていないフリをしている。雰囲気でわかる。
前にクラスメイトの男がしていた会話を思い出す。おい今日の○○のブラ水玉だったぞ、○○はピンクだった、等。あんな風にかっちゃんのブラも噂されているのだろうか。爆豪のブラ水色だったわ、おい聞こえたら殺されるぞ、とか。あまりにも釈然としなかった。あのかっちゃんが周囲の男に完璧に女として見られていて、ブラジャーの色や形状が噂される。言いようもない不快感と疎外感が胸を襲った。もう僕はかっちゃんの透けたブラジャーなんて見たくはないと思った。だからと言って、何をすることもできないけれど。
ねえかっちゃん、ブラが透けちゃってるから、中に薄いシャツとか着たほうがいいんじゃない?
なんて、明日世界が滅ぶと言われても言えないだろうな。もうだんだんばかばかしくなってきて僕は小さく笑った。
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