空が白み始めた頃にようやく行為と処理が終わり、倒れ込むように敷布団に体を横たえる。並んで隣に横たわった成歩堂は、掛け布団を胸の上まで引き上げた。外から差し出す光によって先刻よりも互いの顔がよく見える。朝のすっきりとした匂いがあたりに広がろうとしていた。
「もっと早くに寝るつもりだったんだけど、悪いな」
「良いさ。どうせ明日は丸一日手透きだ」
言ってから明日ではなくすでに今日かと思い至ったが、ここは法廷でも講義の場でもないのだ、曖昧なくらいがちょうど居心地がいい。控えめに照らされる成歩堂の横顔を見やり、起きるのは昼になるかと考えていた。まだ春を装い始めたばかりの季節は冬の名残を温度に乗せていて、朝方は少々肌寒い。
「もう少し詰めろ。寒い」
「ああ、うん」
成歩堂は素直にこちらに寄り、少しだけ肌が触れあう距離になる。それでもやはりまだ寒気が勝るので、肩を掴みその体を思いきり引き寄せた。うわ、と声をあげる成歩堂の顔が至近距離に近づき、ついでに敷布団が盛大によれる。
「ち、近いだろ」
「だが暖かいだろう」
「寝れないって……」
困ったように嘆息しながら目を泳がせている。確かにこの様子だと眠れそうにはなかった。しかし距離が詰まったことにより充分な暖かさが得られたのは事実だ。この温もりを手離すのは惜しい、と思考した結果、片腕を外気に晒す。そして布団の上から成歩堂の体を一定の間隔で軽く叩いた。
「何だよ、イキナリ」
「こうすれば気持ちも落ち着くだろう。何なら子守唄も歌ってやろうか」
「……ぼく、二十三歳なんだけど」
幼い頃母にしてもらった動作を思い出しながらそれを繰り返す。成歩堂は最初戸惑っていたが、意外にも効果があったらしく少しずつ表情が解れていった。
「子供の頃に戻ったみたいだ。母がよくこうしてくれた」
「オレもだ」
「おまえのところの子守唄、どんなだった?」
朧気な記憶の中からその音を探り、冒頭だけ歌ってやる。成歩堂は綻ぶように笑った。
「ぼくのところと同じだ。……安心する」
「このまま歌いつづけてやろうか?」
言うと、「それもいいけど」と呟いた。眩しげにオレを見詰める瞳は仄かな光を放っている。
「おまえの子供の頃の話が聞きたい。どんな事でもいいから、たくさん」
ゆるやかに足が絡められ、新鮮な温もりが加わった。未だ朝は薄く、時間は充分な猶予を持って隣に横たわっている。この男が眠るまでどれくらいまで話せるだろうか。記憶を辿りながら、朝焼けに染まり始める頬を眺めていた。
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