「驚くかもしれませんが、聞いてもらえますか」

緑色が私を射抜く。オフィスに響き渡った低音は、確かに真剣を孕んでいた。椅子ごとこっちを向いて私に視線を注ぎ続けるバニーはさながらメデューサのようで、石になったかのようにタイピングする手を止める。引き結ばれた唇はなかなか開く様子を見せず、小刻みに震える睫毛を眺めながら言葉を待つしか術はなかった。レンズの向こう側で瞬く瞳に感情の色は窺えない。ぱっと見はいたって無表情なバニーだが、しかし僅かに、緊張を滲ませていた。眉間に寄せられた眉が、その証だ。何かとても重要なことを告げようとしているんだろう。しっかりと私を見据えて深刻な雰囲気を醸し出す相棒の姿に、息を呑んだ。これから何を聞かされるのかは皆目見当もつかないけれど、相棒として、こいつの答えを受け入れよう。静かに決意し、私も椅子ごとバニーに向き直り、拳にぎゅっと力を込めた。少しの間を置いてから薄い唇が少しずつ開いていき、バニーはついに、一言を発した。

「僕は、おっぱいが好きなんです」
「そっか………え?」

紡がれた台詞は予想の範囲外を超えて大気圏外にまで突入した。というか私の意識が圏外へと旅立ちそうになった。深刻とか決意とかの言葉たちががらがらと音を立てて崩れ去っていく。いや、待て待て。聞き間違いという可能性を捨てちゃあいけない。あのバニーが突然おっぱいが好きだなんて俗っぽい話を会社で繰り広げるわけが、ましてやこんなに真剣な面持ちで話してくるわけがない。バニーは仕事中の私語をあまり好まず、いつも私の世間話に対して煩わしいという感情を隠しもせず嫌々応対している。それが今はどうした、大事な仕事をほっぽりだして、張り詰めた糸のような緊張感を保って私を正面から見つめている。整えられた長さを持つ爪が拳を強く握りしめているせいで皮膚に食い込み、見てるこっちが心配になるくらい痛々しい事態に陥っているし、空調設備はきちんと施されているはずの社内にも関わらずバニーは大量の汗を吹き出させているし。こんなにも緊張した様子で、おっぱいが好きなどとぬかすやつがどこにいる。そういった思考の末、今なんて?と聞き返してみたのだが、バニーが発した言葉は先程と寸分違わず同じものだった。

「僕は、おっぱいが、好きなんです」
「………」

聞き間違えでもなんでもなかったことが残念でならない。なんで私は重い決意を固めさせられた後にこんな至極どうでもいい秘密を打ち明けられなければならないのか。というかバニーはいったいどんな返答を待ち望んでいるというのか。私が言えることなんてせいぜい「へー、そうなんだ」ぐらいだ。それぐらいの感想しか持ち合わせていない。あ、でもそういうのに興味なさそうなバニーにもちゃんと好みがあるんだってことには少し意外性を感じたかもしれない。まあこいつも人間なんだから好みの一つや二つ、あって当然なんだが。
互いの間に何ともいえない雰囲気が流れ、気まずさに押し負け視線をあちこちにさまよわせる。えーと、と場をつなぎ止める言葉を吐こうとするも、どういう言葉をかければいいのかがよくわからない。少しの間戸惑いに暮れていると、突然バニーが情熱を含みながら言葉を紡ぎ始めた。

「…僕は、おっぱいは何よりも形を重視したいんですよ。大きさだってそりゃあ、大事だとは思います。けれど、形がよくなければいくら大きくてもダメだと思うんです。美しいフォルムを保つおっぱい、それはもう、芸術と呼んでも過言ではないでしょう。僕は25年間生きてきましたけど、そんな芸術作品に出会ったことがありませんでした。でも、最近になってやっと出会えたんです、生ける芸術に。BカップとCカップの中間ほどの控えめな胸が描く美しいフォルムを僕は目の当たりにしてしまったんです。今まではなんとか我慢していましたけど、もう我慢できません」

正直ドン引きしてるし今すぐ荷物まとめて楓に会いに行きたい気持ちでいっぱいなんだが帰れるような雰囲気ではなかった。席を立とうとした瞬間に阻止されるに決まっている。なんで私こんな長い話聞かされてるんだろうと遠い目で熱弁を振るうバニーを見つめた。早く終わらないかなあ。という風に目の前の現状とはまったく違うことに想いを馳せている途中、唐突にバニーが私の両腕を力強く掴む。余裕を完全になくした瞳が私の目と胸へと視線を往復させていた。

「つまり、あなたの胸は、僕にとっての桃源郷とも呼べる代物なんです!」

だから、と開いた口が次に紡ぐであろう言葉は容易に想像がついた。この流れからして頼まれることといえばだいたいはわかる。早く帰って楓と話したいなあ、なんてことを思いながらも私は相棒に答えるのだ。

「おっぱいを揉ませてください!!」
「無理」



虎徹さんのおっぱいを揉みしだき隊
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