※虎←兎折→空
※心中ネタ
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「生まれ変わったらあなたと恋がしたいなあ」

風が肌をゆっくりゆっくりと冷やしていく。隣にいる折紙先輩と僕はお互い薄着ではないはずなのだが、場所が場所だからか、冷気は服を通り抜けて僕たちの体温を奪っていった。かたく繋いだ左手だけが、唯一暖を得られる場所だ。ちかちかと夜の街が光る。シュテルンビルトの夜は昼間同様に賑やかなものだ。何万を超える市民の息遣いが聞こえてくるような、活気溢れる街並み。彼は、スカイハイはいつもこんな街の景色を見下ろしていたのか。彼がキングオブヒーローたる所以が、ここにはある。そんな気がした。この風景を目前にしてしまえば、人々のために尽くしたくなる気持ちも、期待に応えたくなる気持ちもわかる。彼にとってこの街並みとキングオブヒーローの称号は、宝物だったのだろう。まあ、その大切な肩書きは、僕が奪ってしまったのだけれど。

「無理ですよ、バーナビーさん」

今し方の僕の言葉に、折紙先輩が答えを返した。無理に決まってますよと、先輩は微笑する。諦めているかのように、ふっと笑うのだ。横顔で哀愁を語る彼は、今まで目にしてきたどんな姿よりも儚く、されどどこか強さを秘めていた。きれいだな、なんてことを薄らと思う。どうして無理なんですか、なんて自分でもわかりきっている答えを敢えて問うのは、もしかしたらもう少しだけこのひとと共にこの夜景を眺めたいからなのかもしれない。

「だって、生まれ変わったとしてもあなたはタイガーさんを好きになるでしょう?僕だって、生まれ変わってもきっと、スカイハイさんを好きになります」

そうですよね。そうなんですよね。呟いた言葉は夜の闇に弾ける。どちらからでもなく、繋いだ手に力を込めた。一際強い風が吹いて、二人の髪を弄ぶ。ああ、寒い、なあ。それになんだかとても疲れた。死んでしまいそうだ。なんて、くだらないジョークは僕には似合わない。

「それにバーナビーさん、僕あなたのことあんまり好きじゃないんですよ」
「へえ、どうして?」
「だってあなたはスカイハイさんの宝物を奪ったひとだ。僕らの、僕の王を頂上から突き落としたひとだ」
「なるほど。でもあなたは今からそんな奴とぺちゃんこになるんですよ?」
「そうですね。でもきっとこれでいいんだと思ってますから」

ぽつぽつと返事をする先輩の言葉に迷いは微塵も感じられなかった。寂しさだとか悲しみだとかそういうものはやはり少しだけ垣間見えるけれど、恐怖なんて類の感情は見えやしない。紫の瞳はすでに覚悟を決めていた。僕も、とうに決心はついている。ビルの屋上からの、この景色をしっかり目に焼きつけて、さて、と隣の彼に声をかけた。

「そろそろ、いきましょうか」
「はい」

なんの気持ちも孕んでいない二人の声音が暗がりで響いた。異常だと笑いたい奴は勝手に笑えばいい。ゆっくりゆっくり、終わりに足を向ける。お互いに目を合わせて、軽く微笑んだ。そして頷き、大きく高く、跳んだ。
ああ、さようなら虎徹さん、愛しています。「スカイハイさん、大好きです」

その夜、僕らはほんの少しだけ空を飛んだ。
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