お題:どこかの終身刑
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或いは川辺。男は川の近くに無数に落ちてある小さな石を拾い集め、器用に積み上げていく。しゃがみこむ男の傍に立って、ぼくは石が積まれていくのをじっと見つめていた。風はぼくらの頬を掠り、鳥が高く鳴きながら空を滑空していく。たなびく赤を見つめながら、ぼくは自らの腰に携えた刀に手を乗せた。
「どうだ、それは」
「うん?」
途端、急に話しかけられ、少々面食らう。声は上擦っていなかったかな。などとどうでもいいことを考えながら、言葉の意図を探る。亜双義は顔を横に向け、ぼくの瞳を視線で刺した。
「獲物は斬れたか?」
……獲物か。どうなのだろう。まだ、斬れていないかな。思考のとおりに素直にそう告げると、亜双義は笑った。そうしてまた石を積み上げはじめる。ぼくはそのつむじを見下ろしている。会話ではないのかな、この場での本質は。ではいったい何だというのだろうか。
亜双義一真。親友は死んだ。ぼくを許せるかと何度も問い、願い、次に許せはしないかもしれないと絶望をした。ぼくはどこにも行けず、どこにも立ち返ることができない。ただじっと水平線を見つめている。どうしたらいいかと記憶の友に尋ねようと、返るのは笑顔のみだ。せめてその眉間に皺を寄せ、目を細め、頬を引き攣らせながら「許さない」と言って裁いてくれたのならば、それほど楽な生もなかった。けれど、もう亜双義は記憶の中にしかいない。その中に許しを棄てた友を探したけれど、亜双義に許されなかった記憶など一度たりともありはしなかった。……しまった、と、思った。
「成歩堂」
亜双義はもう一度ぼくを見る。じっと視線を向ける。ぼくはただ無言で視線を返した。空に飛ぶのは無数の鴉だ。
「此処は冷えるだろう」
言われて初めて気温を意識する。確かに少し肌寒いような気がした。手の先はすっかり冷たくなっている。少し寒いなと言って、亜双義に曖昧な笑みを向けた。目前の川では何かが控えめに跳ねる。穏やかな流れではあるけれど、恐らく落ちたが最期、もう陸には上がれないのだろう。そこに理屈は帰さない、そういう川だ。亜双義の眼差しは透明に光り、水面を通してぼくを見ている。見ている。薄荷のような匂いがした。なあ、今何を考えているんだ。そっちは楽しいか?毎日そうやって、ぼくを見ているのか。亜双義。いつの間にか亜双義は鉢巻を外していて、目を刺す赤はぼくの腰ではためいていた。
「……そんな薄着で地獄に来るな」




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