差し込む朝日に瞼を焼かれ、そろそろと目を開く。いつもより高い自らの体温を感じながら隣を見ると、そこには亜双義がいた。瞳を閉じてぐっすりと寝息を立てている。のそりと起き上がり、そうっと布団から這い出た。胡座をかいて亜双義の前に座り、その寝顔を正面からじっと見据える。ぼくのほうが先に起きるなど、ずいぶん珍しい。いつも朝起きると、亜双義は朝の鍛練も何もかもすべて終えた様子でぼくの寝顔をつついたりしながら「寝坊助め」と不敵に笑っているのに。……それくらい同じ朝を迎えているという点に少しだけ頬が熱くなった。つまりぼくらは『そういう関係』だ。昨日だって、そうやって親友というだけでは行わない行為をさんざんしたばかりだった。亜双義にはずいぶん長く付き合ってもらった気がする。心の中でちいさく謝りながら、貴重なその寝顔を見つめる。すると、やがて瞼がひくりと揺れた。そのままきつく瞑られたそこが少しずつほどけてからゆっくりと上がったとき、すこしびくりとする。亜双義の端正な顔は寝起きでも変わりはしないが、少々可愛げをはらんでいるようにも見えた。二人でせせこましく侵入していた布団に皺をつくる足先が微動する。ぼんやりとした瞳はうつろに漂った後ぼくを見つけて、じっとこの目を捉えた。寝顔も良かったけれど、やっぱり起きているときが好きだな、なんてひっそりと考える。この目が好きだ。ぼくに向けられるまなざしの強さ。強烈だけど心地が良い。
亜双義の、放り出されていた左手が動く。のろのろと宙をさまようそれはやがてぼくの手首を掴んだ。決して強くはない力。それはそのままゆっくり、撫でるように指を下に這わす。手の甲を滑る指先はぼくの指の骨を確かめるようにすうっとなぞり、指の間に自らのそれを嵌め込むように差し入れる。人差し指の間に軽く爪を立てられ、三日月型の痕がうすく作られた。ちいさな痛みに胸が疼く。
空いているほうの手が胡座をかいているぼくの足に伸びた。膝頭に手のひらを置かれたかと思えば、柔くそこを撫でさすられる。そのまま手は足を滑り、ふくらはぎまで下降する。短い脛毛の感触を確かめているのか指先が何度か表面を往復した。くすぐったくて身を引こうとすると、ぼくを捕らえる左手に力がこもる。右手はふくらはぎを過ぎて足首にたどり着いた。くるぶしに親指が置かれ、皮膚と骨の擦れるのを楽しむかのようにこりこりと弄んでいる。ぼくは困っていた。……本当に困っていた。
「……亜双義」
「おはよう」
ここで挨拶か、相棒よ。怯みながらもこっちも「おはよう」と返す。亜双義は可笑しそうに目を細めてちいさく笑った。ああ、良くない。その笑顔がぼくに及ぼす影響に、この男は気づいているのだろうか。
「まさかキサマより遅く起きるとは」
「まあ、珍しいよな」
「……昨夜さんざん無茶をさせられたせい だろうな」
昨夜。その単語に、さらに良くないものが体を巡った。思い出される数々の記憶が走馬灯のように脳を駆け回る。何回この体を抱いただろう。覚えていない。ぼくに「可愛い」と囁いた甘い声をきっかけに理性の糸が切れ、それ以降の記憶は曖昧だった。頬をかすかに赤く染めながら唇をうすく開いてぼくの名を呼んだ、ああその男が今目の前で、何でもないような顔でぼくに微笑んでいる。昨夜あんなに、……滅茶苦茶にした男が。ぼくを湿る音で呼んでいたくせに、今は平静なままそこにいる。
いよいよ困惑が頂点へ達し、ぼくの中の動揺はほとんど立ち上がりかけていた。触れている部分が熱くなる。見下ろした先で視線がかち合い、思わず逸らした。
「亜双義。……手、離してくれ」
「何故」
「……そういう気分になってきちまいそうだから」
素直に告げる。昨日あれだけしてまだ足りないのか、と呆れられるだろうな。しかもまだ昼前だというのに。
けれど、覚悟していた乾いた笑い声も呆れ返ったため息も返ってはこなかった。代わりに亜双義は穏やかな微笑みを崩さずにそこにいる。瞳の奥が藍色に光ったように見えて、目が逸らせなくなった。唇が緩慢に開いていく。絡められた左手の指達が強く握られた。
「『そういう気分』になるように触ってるんだ」
右手がまた下降して、足の指に沿った。隙間に指を入れられる。もはや嘆息するのはぼくの役目だった。その息ももう震えている。繋がれた手を握り返したのを合図に、ぼくはそのまま布団に引きずり込まれた。
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