寄席への道中、強く吹いた風が成歩堂の髪に薄茶色の枯れ葉を乗せた。器用に乗せるものだ、と半ば感心しながら、その頭のつむじのあたりに手を伸ばす。ゆっくりと指を黒に沿わせ、枯れ葉を掴んだ。成歩堂が緩慢にオレを見やる。少し上げられた視線と自らの視線がかち合う。
それにきっと、一瞬間まともな思考を狂わされたのだ。オレは馬鹿な事をした。単に枯れ葉をすぐ取ってしまえば良かったものを、気づけばオレの指先は成歩堂の髪を名残惜しげにちいさくかき混ぜ、あまつさえ愛撫か何かのように、指先で頭を撫でてしまった。ああ明らかに、大きく取り零した。親友だ。親友なのだから。少なくともこの男はそう思っていやがるのだから、全くもって正しい所作とは言えなかった。ただただ無意識で純度の高い欲望を、オレは表層に晒してしまったのだ。 凡人なら気づきもしないかもしれない事だったが、確信していた。この男は気づく。オレの手指と表情を視線で吟味し、すぐに気づく。
素早く手を引っ込め、枯れ葉を道端に散らす。しかしもう遅かった。成歩堂の黒く大きなその瞳が、じっとオレを見据えている。少し、驚いたように、だ。風よどうかもう一度強く吹け、次は間違えたりなどしない。そう簡潔に念じたが、うしろ髪を揺らすそれ以外が吹く気配は一向に存在しない。亜双義。少し乾いた声が、オレを呼んだ。ああ、しくじった。――しくじった!
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