※数年後
ホームズ→アイリス←ジーナ前提
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アイリスの結婚式を控えた真夜中のことだった。イーストエンドの子供たちが眠って、静まり返った我が家の戸を叩く音。おそるおそる答えて扉を開けた先に居たのは、紛れもなくホームズだった。感情の欠け落ちたような顔をひとつぶら下げて、久々に会ったっていうのに挨拶も無しにアタシの鼻先につめたく光る拳銃を突きだす。
「相手の男をこれで殺しちまおうかと思ったんだけどね、生憎弾がウチになかったのさ」
だから、良ければ分けてくれないか。そう言って口元を緩める。二人みたいな観る目を持たないアタシには、ホームズの目を間近に見ても相変わらず何も読み取れやしなかった。代わりに返事をひとつだけ返す。
「ウチにもないよ」
大きな嘘だった。今ウチにはいっぱいの弾丸が保管されている。アイリスの結婚相手を殺してしまおうと思って、久しぶりに近くの武器庫でスリの腕を試してみた結果だった。引退したとはいえ、アタシの腕もまだまだ鈍っていないらしい。そのまま数年前にアイリスがくれた拳銃にその弾を込めようとしたけれど、その拳銃、よく調べたら実弾は込められない構造になっていたのだった。さすがアイリスのくれた物だと一生消せない悔しさの中で思った。アイリスは、やさしい。
「明日、朝早いでしょ。……もう帰れば」
そう声をかけてみる。ホームズはしばらくの間じっとアタシを見つめた。次に、視線を右に逸らす。次に左。家の中を隅々に見渡す。ある程度見尽くしたあと、ホームズはもう一度アタシを見た。そして、ゆっくりとほほえむ。
「本当に人というのは、実に勝手に育ってくれるな」
きっとホームズは気づいていた。アタシの家には弾丸がたくさんあって、アタシはさんざん泣き腫らしたあとで、明日倫敦は晴れる。そのぜんぶを、あの目は観ていた。
ホームズの大きな体がアタシの肩にのしかかる。アタシはただ、その背中に手を置いた。あの子の笑顔が頭に浮かぶ。
「明日、遅刻しないでよね」
「……ミス・ジーナ。君こそ、明日は早起きだろう」
抱き合ったままお互いに薄く笑い合う。明日は忙しい。弾丸を返しに行った後、アタシはこの男と死ぬ想いで笑わなきゃならない。
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