雪にかき消されそうな声でささやきあう言葉のなかのささくれや、かじかんだ指先を隠すように握りこまれた拳だとか、唇のはしの、あざむきそこねた憂鬱を。ぼくは一番となりで見ているのか、いま。誰よりも近くで。ひとときの優越。儚い夢だ。亜双義の吐く息が白に染まる。花でも咲かせているようだった。……頭がどうにかなっているのかしら。
「結局、どこに食いに行くんだ」
「え?」
「夕飯だ。しつこく言うが鶏肉以外だぞ」
ああ。そうだった。夕飯、どこに食べに行こうか。西洋の神様の誕生日だということで推した結果、間もなく却下されてしまった鳥料理に代わる何か。あれこれ思案してみるけれど、いつもどおりの牛鍋ぐらいしか思い付かない。困った末に亜双義に目配せすると、ちょうど目が合った。得心したような顔。どうやら考えていることは同じのようだ。
「牛鍋だな」
「……だな」
呟いてから二人で笑いだす。亜双義の、笑った顔がいいと思う。かたく結んだ紐がほどけるときのような安心感がある。あっはっは、と大きく口を開けて笑う様を目にするたびに、ああ、良かった、と。好きだなと感じる。
銀世界の中で亜双義はひときわ存在感を放っていた。黒の意志と赤の意思。斜め後ろを歩きつつ、その色たちの輝きを盗み見る。親友、やっぱりおまえはカッコいい。そのきらめきは真っ直ぐ前に進ませるべきだ。なんて、その背にぼんやりと祈る。なんでもいいから言いたくて口を開いたけれど、どうにもうまく言葉をまとめられずすぐに閉じた。呼吸が苦しい季節だ。
「寒いな」
「ああ」
寒いな。そんな当たり前の返事に、なぜだかてのひらはざわりと騒ぐ。
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