※虎←兎←折
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「一度でいいから」

抱いてくださいと。組み敷いているバーナビーさんに向けて僕は言った。目からしょっぱい雫をぼろぼろこぼしながら、嗚咽混じりに言い放った。しかしトレーニングルームに響いたのはタイガーさんの声だった。つまり僕は今、タイガーさんに擬態した姿でバーナビーさんにとんでもないことを懇願しているのだ。この行為がタイガーさんとバーナビーさん、両方を侮辱していることは重々承知している。けれど僕はもう耐えられなかった。いつもバーナビーさんを目で追い続ける僕と、いつもタイガーさんを目で追い続けるバーナビーさん。そして、バーナビーさんの視線になんてまったく気づいていないタイガーさん。誰の視線も交わることはない。そんな状況が切なくてもどかしくて、バーナビーさんに振り向いてもらいたくて、でもきっとバーナビーさんは僕なんかを受け入れるはずがなくて。ならばと僕が考えたのは、自分の能力をいちばん最低な形で使うことだった。代わりだってなんだっていいから、ただ、バーナビーさんに愛してほしい。そんな欲にまみれた自己満足のためだけに、僕はこんなことをしているのだ。なんて身勝手なやつなんだろうか。でも、体だけでもいいから、彼と繋がりたかったんだ。

「折紙先輩」

さっきまで驚きに目を見開いていたバーナビーさんが、不意に穏やかな声音で僕の名を呼び、優しさを湛えた瞳で僕を見据えた。そして、僕の顔に、タイガーさんの顔に手を添えて、ゆっくりと頬を撫でる。そのあとまたやさしく微笑んで、うつくしく整った唇が少し開いて言葉を紡ぎはじめ、ああ、バーナビーさん、

「おじさんはそんなにみっともなく泣きません」

温もりに溢れていた音が、一瞬にして氷点下に生まれ変わった。



不愉快
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