16話から派生
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おまえは気づかなかった。おまえは気づけなかった。彼がそう口に出したことはなかったけど、僕の脳内では彼の口が紡ぎ彼の声で発せられるその言葉だけがずっとループしていた。バカだなバーナビー、呆れた顔とも泣き顔ともとれる表情で彼は言う。そして疲れたように笑った。あくまで想像上の彼なのだがそれはリアリティを持って僕を襲う。僕は愚かな自分をさんざん呪ったが、それで彼の大事なものが帰ってくるほどここは甘い世界ではないのだ。いつから能力が減退し始めていたんですか、と訊いた僕に蚊の鳴くような声で1ヶ月前からだと彼が答えた瞬間、僕はさすがに死にたくなった。ずっと一緒にいたんじゃなかったのか僕たちは。一番近くで彼を見ていてどうして気づくことができなかった。僕は彼の何を見ていた。唇を噛み締め、拳を握り締めた。僕の軽率な発言は無意識の内に何度も何度も彼を傷つけていたのだろうか。彼は今日も心の中でひっそりと泣いている。虎徹さん、と名前を呼べばまだワイルドタイガーでいたいんだと彼が言った。そして僕は初めて彼の涙を見る。僕の前で泣くのはこれが初めてですかと訊けば首を横に振った。ヒーロースーツは傷も涙も隠せるから便利だと声を発する僕のバディは果たしてこんなにも弱々しく小さな人だっただろうか。本当に僕は何を見ていたんだろう。きっと彼の優しさしか見えていなかったのだ。


盲目
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