何事も経験だ、なんて言い出したのは果たしてどちらだったか。数分前の出来事がずいぶん遠い昔のように思える。ぼくは唇に残る感触を指で確かめた。目前の亜双義は上唇と下唇をちいさく擦り合わせている。
「……どうだった」
「……よくわからなかった」
ぼくがそう応えると、亜双義は口の端をすこしだけ持ち上げた。けどなんだかうまく笑えていないようだ。赤い顔だな、と言おうとしたけれど、「キサマもだ」と言われるのが目に見えたぼくはそっと口をつぐんだ。
ぼくら今まで親友だった。じゃあこれは、親友どうしの馴れ合いに含まれるのかしら。目をとじて考える。至近距離でかかる息や頬に添えられた手、はっきりと目視できたまつげと柔らかいそれ。ぼくは何かを自覚してしまったのだと思う。亜双義と、口づけを交わしたことによって。
「亜双義」
「……なんだ」
「ぼくは今、たぶん、さらに新たな経験をしているかもしれない」
「………」
奇遇だな、と告げるその瞳、さあ何を表している!
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -