「なあ亜双義……」
「………」
「亜双義ぃ……」
腑抜けた声を出す目前の親友を一瞥する。机を挟んで向かいにいる成歩堂は今にも顔を突っ伏しそうな様子で広げた書物を両手で持っていた。その眉間には、深くシワが刻まれている。どうやら共に取り組んでいる大学への提出課題が思い通りに進んでいないらしい。しかしまだ始めて30分程度しか経っていないというのに、根をあげるのがずいぶん早い。なのでオレはあえて返事をしなかった。
「なあ……そろそろ休憩しないか?」
懇願するような視線がこちらに向けられているのを尻目にしながらも、オレは筆を走らせる手を止めはしない。今キサマの相手をしている暇はないのだ。そう雰囲気に含ませる。しかし成歩堂の言葉は止まらなかった。
「集中してやるのもいいけど、適度な休息も時には必要だと思うんだ……」
なあ亜双義。そんなふうに、甘えるような声で名を呼びつづける。それでも無視を決め込んでいると、成歩堂はおもむろに手を伸ばしオレの腕をちょんと人差し指でつつきはじめた。
「……亜双義」
「………」
一定のリズムでつつかれ、腕がこそばゆい。まるで子供のようにじゃれてくるそれに体の底から湧きだすものを感じながら、それでも反応を返さない。今度は袖を摘ままれ、そのまま引っ張られる。
「亜双義」
「……」
「……亜双義」
視線を動かさずにいると、不意に袖を引っ張る手が止まった。諦めたかと思ったが、向こうが手を引っ込める気配はなかった。そのまま、成歩堂の口からぽそりと言葉が紡がれる。
「返事してくれよ……」
「………」
「休憩しなくていいから」
一度だけこっちを向いてくれ。ほんとうに寂しそうな声で、成歩堂がそう呟いた。思わず顔をあげて正面の顔に目を向けてしまう。目が合った瞬間、親友は心底ほっとしたように笑ってみせた。
「……なんだその顔は」
「ええと……怒ってしまったのかと思って」
そう言うと、頬を掻いてはにかむ。そして邪魔してごめんなどと口にしたかと思えば、そのままおとなしく課題に目を戻していった。胸の奥底にある感情がざわざわと音を立てる。まったく困ったものである。なんという顔をしてくれたものか。
「本当に、とんだ邪魔をしてくれたな」
「……え?」
机に手をつき、きょとんとした顔をする成歩堂の上着の襟を掴んだ。驚いた様子の親友にそのまま顔を寄せ、唇を重ね合わせる。2秒ほどして口を離すと、状況が掴めないという表情が目前にひとつ出来上がった。口端を引き上げながら、動揺に泳ぐ目を見つめその名を呼ぶ。
「成歩堂」
「え、……あの、えっと…」
じわじわと頭が働きはじめたのか、その顔は少しずつ朱に塗りつぶされていった。口を金魚のようにぱくぱくと開閉させているその姿に、胸の奥から湧き出る感情はより濃い色を浮き出す。やはり、もう課題どころではない。その顎を捉え、口角を上げて囁くように告げてやる。
「心ゆくまで休憩しようじゃないか、相棒」
「……休憩って、こ、こういう意味じゃな…」
何か言おうとした唇をもう一度ふさいで、そのまま言葉を取り上げた。
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