講義の途中、ふと外を見るとぱらぱらと小雨が降っていた。思わず小声で「うわあ」と呟いてしまう。いつもなら小雨程度なら気にせず帰ってしまうけど、今日は鞄に入りきらないほどの提出課題を教授からいただいてしまったのだ。しかも極めつけに、傘を忘れてきてしまった。濡れちゃうじゃないか。どうしよう。
「なんだ」
ふと隣の亜双義が声を潜めながら呆れ顔でそう訊いてくる。小雨だよ。そう返すと、なんだそんなことかという顔をされた。ぼくには大問題なのに、薄情なヤツである。
「傘忘れたんだよ。どうしようかな」
「……濡れて帰れ」
「でも、持って帰らなきゃいけない紙の束がこんなにあるしなあ」
言うと、亜双義はため息をつく。これはちょっとした賭けだ。今朝見たところ、亜双義は傘を持ってきていた。そこに入れてくれる可能性に、ぼくは賭けたい。無理強いはしないけど。
「……仕方がない」
「お!」
「キサマのことだ、『傘に入れてくれ』と言いたいのだろう?」
「ああ、まさに!」
「まったく……」
勝手に入れ、と亜双義は言った。ありがたい、助かるよ。ぼくが何度もそう言うと、「静かにしろ」と睨まれた。ああ、帰りまでに雨がやまなければいいな。そんなことを、ぼくはなぜだかふと考えている。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -