「虎徹さんは尊い人ですね」

二人きりのオフィスでバニーが唐突にそう切り出した。なんだそれ、と冗談混じりに呟こうと口を開いたが、バニーの方を向いた瞬間、俺はそれをすぐ閉じることになる。ふと視界に入ったそいつの緑が、真剣そのものの眼差しで俺を見つめていたから。透き通った瞳から、冗談の色は一切窺えやしない。取り込まれそうなほど降り注がれる熱視線は、そのうちに燃やし尽くされてしまうかもしれないとまで感じさせた。張りつけられたようにその場から動けなくなる。なんとか取り繕っている笑顔も、それはそれは不自然なものになっていることだろう。

「冗談じゃないですからね。僕は本当に、あなたを尊くて素晴らしい人だと思っているんですよ」

ふ、とバニーが口元を緩める。営業用の甘い笑顔とはまた違った、幸福に満ち足りたような表情。人はこれを、恍惚の笑みと呼ぶだろう。レンズの向こう側はやはり視線で俺を縛りつける。そのうちきっと思考回路までも絡めとられてしまうような気がして、恐怖さえ滲みはじめた。しかし目を逸らすことができない。ああ、なんで。

「虎徹さん、あなたは素敵だ。世界中の誰よりも格好良くて、美しくて、正しくて、素晴らしい」

歯が浮くどころではない、それを通り越して足が竦むほどの言葉が我が身に浴びせられる。一言一言をゆっくりねっとり、味わうように噛み締めるように、バニーは発する。軽く鳥肌ものだ。ついこの間までは僕の足を引っ張らないでくださいだの僕はあなたを信じていませんだのとつっけんどんな態度をとり続けていたこいつが、突然こんなに丸くなってしまって。いや、喜ぶべきなんだとは思うんだが、しかしこれは、いくらなんでも。

「信頼できるバディを持てて、僕はほんとうに、幸せ者ですよね」

ね、虎徹さん。恐ろしく優しい声色が社内に響く。耳を塞ぎたい、漠然とそう思った。ああバニー、違うんだ。おまえは俺を信頼しているんじゃない。それはきっと、

「あなたは僕にとって、神様以上の存在なんですよ」

うっとりと呟いたバニーの顔が声が、網膜に焼きつき鼓膜に張りついた。いったい誰がこいつをこんなにしてしまったんだ。ああ俺か。


信頼と信仰
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -