夕食に出された赤ワインはどこまでも深くグラスの中に海を作っていた。それを小さく揺らしながら、亜双義はぼくに「キサマも一口飲むといい」と微笑んだ。こちらに差し出されたそれを果たして受け取るべきかと暫し逡巡する。けれど亜双義はそんなぼくの様子などお構いなしに、早く、とぼくを急かすのだった。仕方なく受け取り、一度だけ口をつける。淡いぶどうが口をついた。
「美味い」
「だろう?」
亜双義はいつもよりか柔らかく笑んだ。酒の力だろうか。ぼくは、何とも言えない気持ちで水面を眺めていた。
あれからずっと忘れられない。他愛もない夜だったのに。亜双義はワインを、ぼくは亜双義を見つめていて、月の綺麗な夜で、ぼくは何かを自覚した。酒の力なのかもしれない。今もまだ、ぼくの酒が抜けていないだけなのかもしれない。やっかいな酒を飲んでしまった。酔っ払ったぼくは今日も、記憶の中の総天然色の亜双義を見つめている。亜双義は今日も、あの夜の笑顔を浮かべていた。
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