「オドロキくん、今夜空いてるよね?」
そう言って笑った成歩堂さんは、オレが今抱えている資料の山の上に新しい山を積み重ねた。今ここにみぬきちゃんと希月さんがいなくて本当によかった。まあいたら彼もこんなことを言わないとは思うが、しかしこんな真っ昼間の仕事場で何の色気も出さずに夜の誘いをしてくるかね。ムードもへったくれもねえ。
「空いて…」
ません。言ってやろうかなと思いつつ、その憎たらしい目を窺う。感情がうまく読み取れない。当たり前だが腕輪の反応もなし。
「ん?」
オレの顔を見て首を傾げる彼はどこか意地悪く口端をつり上げた。オレをからかうとき専用の厭らしい表情だ。無性に腹が立つ。決めた、空いてませんと言ってやろう。調子を狂わせてやりたい。
「…ません」
「ふうん」
彼は表情ひとつ変えずにそうつぶやく。なんだよ、少しは残念そうにしろよ。
「じゃあ、仕事の途中なんで」
癪な気持ちのまま成歩堂さんをすり抜けて資料を片付けに戻ろうとした。しかし、背後から「オドロキくん」と軽快な声色で呼び止められる。…何か嫌な予感がするが、呼ばれたからには振り向くしかない。彼は所長だ。
「なんですか」
と返事をしながら振り向いた。すると、いつの間にか予想外な距離まで成歩堂さんが詰め寄っている。目の前にできた影に驚いている間にも、彼はオレの腕輪に手を添えていた。
「ぼくの目を見て、もう一度ゆっくりと返事をしてごらん」
「…は」
「オドロキくん、今夜は空いてるよね?」
「……」
この目はあれだ。裁判中の、証人を射抜くときのあれ。オレはこれにどうにも慣れない。何か不思議な、人智すら超えた力が、この眼光には働いている気がしてならないのだ。しかも今彼はわざわざオレの商売道具に手を触れている。拘束して力を封じるわけではなく、ただその存在をよりこの場で主張させるかのように、触れているだけ。ぼくと戦いたいならどうぞご自由に。そう言われているのと同義だった。勝負は公平。彼に捕まえられるか、逃げ切れるか。オレは彼の瞳をじっと見つめ、…2秒ほどで逸らした。そう言えばオレ、この人にポーカーで勝てたことなかったな。
「…空いてます」
「よし、解除成功」
「は?」
「ああ、こっちの話」
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