生まれ変わったら絶対武器なんて持つ職には就かない。兄さんのご飯を作りながら穏やかに暮らし続ける日々を送るのだ。でもそれじゃ守れないものがある。それはなんだ?なんだっけ。ああ、いや、ちゃんとわかってるけど。

「今日は早く帰ってきてくれよ」
上着に袖を通した兄さんに鞄を渡しながらそうつぶやく。兄さんはこっちを見てちょっと不思議そうな顔をした。
「今日は何かあったか?」
カレンダーは捨てた。だから確かに日付の感覚を俺たちは最近つかみにくい。秘密にしてるのもおもしろいかもしれない、とちょっとばかりの邪悪な感情が働いてしまい、俺はふだんどおりの笑みを急ごしらえで取り繕ってから口を開いた。
「いや、特にないんだけど。最近残業ばっかりだからあんまり一緒にご飯食べてなかっただろ?」
「ああ、確かにな」
そう言ったあと、兄さんはなぜかくすくすと笑った。ずいぶん楽しそうだ。
「え、なに」
「いや、寂しい思いをさせていたんだなと思ってな」
「え、いや、寂しいとかじゃなくて!」
思わず顔が赤くなる。そんないまだに俺を子供みたいなふうに扱わないでほしい。が、確かにさっきの文脈だと俺が寂しがっているようだ、と気づいてしまい脳内で頭を抱えた。

ああ好きだよ。愛してるよ。言えば助けてくれるのか。なあ助けてくれるのか。俺は全部守ろうとしただろう。奪ったのはお前らだ。俺は全部失いたくなかった。だからいつも最善の方法を探していた。お前らも見てたじゃないか。ああ、ラル、なあ。そうだろ。俺はお前の腕で眠りたい。エルと手をつないでゆっくり散歩がしたい。ああ、兄さんにご飯を作らないと。それくらい許してくれよ。あのひと俺がいないと死んでしまうんだ。いいだろ。いいじゃないか。なあ、助けてくれよ。

帰ってきた兄さんは部屋の電気が消えていることを不審に思ったのか、玄関から俺の名前を呼んだ。ルルがおそらく兄さんのほうにとことこと歩いていく音がする。
「お、ルル。ただいま。なあ、ルドガーはいないのか?」
ルルは「なぁん」と気のない(んだと思う)返事をしている。そうか、とつぶやいている兄さんがやけに笑える。
「ルドガー、いないのか?…」
兄さんの声と足音が近づいてくる。やがて俺の部屋の前で音は止まった。そして、開けるぞという声。その扉が開くタイミングで俺は紐を引っ張る。タイミングはうまくいった。扉を開けた瞬間にパンと破裂音がして、次に兄さんは色とりどりの紙テープを体に浴びた。きょとんとした顔がかわいい。
「誕生日おめでとう!」
「え、あ、ああ……ああ!なるほど」
少し遅れて兄さんは状況を理解し、いや参ったなと頭をかく。さらに隠してあったケーキを突き出してみせると、なぜか嘆息された。
「え、なんだよ。不満でも?」
「いや、俺は幸せだなあと思って、ついな…」
「なんかおやじくさいなあ、それ」
「言うなよ。まだ29だ」
軽口をたたいて笑いあう。そのあと俺は部屋から出て、ふたりでいつもより豪勢な夕食とケーキをつまみに今までの思い出なんかを語り合った。

複数の光の前で立ち止まる。どこに行こうと、光は光だ。……本当に?本当にそうなのか。なあ、なんとか言えよ。助けてくれよ。


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どのエンドに行くか迷ってルドガー
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