小さい頃、スレイが遺跡で迷子になったことがあった。同じく迷子になりかけた僕は幸いみんなにすぐ見つけられ無事に帰ることができたが、スレイは日が暮れても帰ってこなかった。次々にスレイを探しに出るみんなの背中を見ながら、僕は手を組んできつく目を閉じ、熱心に祈りを捧げていた。
神様、神様、どうかスレイを返してください。僕の大切な家族なんです。もうなんにもいらないから、どうか彼だけは返してください。
いるのかもわからない神に膝をついて必死に祈った。途中からジイジが僕の頭を優しく撫でてくれて、それで泣き出しそうになるのをこらえながら、ただずうっと祈り続けていた。
そして完全に夜が訪れた頃、スレイはみんなに連れられてひょっこりと帰ってきた。
「ミクリオ、ただいまー」
これが僕を見ての第一声だ。今でも言い方から表情まではっきりと覚えている。ここまで心配させておいて、そんなにあっけらかんとした感じで帰ってくるなとずいぶん怒った。しかし怒ると同時に安堵も一気に湧いてきてしまって、最終的にはスレイにしがみついて泣いてしまったのだが。スレイもそんな僕を見てそれまでの不安や恐怖が表に出たのだろう、僕と同じになってわんわんと泣き出していた。

今となっては懐かしい思い出だが、あの時、祈るしかできないひどく情けない自分のことは記憶の中にずっと残っている。スレイを自分自身で見つけられなかったことと、スレイが帰ってくるのをただ待っているだけでいたことを思い出してはひっそりと悔やんでいた。僕はあまりにも非力で、幼かったのだ。
目の前に広がる景色に目を向ける。雲を割って伸びる一筋の光は、スレイが世界を照らしている証拠だった。もちろん、彼はもう夜が来たって帰ってはこない。次にいつ会えるのか。それは誰にもわからなかった。けれどもうあの日のように、スレイを返してくださいと神に祈ったりはしない。僕は今度こそ僕自身の手で、君に手を伸ばしてみせる。君を、呼び戻してみせる。
「待ってるだけなんて、もう御免だからね」
光に背を向けて歩き出す。祈る手はもうずいぶん前に解いて、左手には杖を当てはめた。世界にはまだ問題が山積みで、君が起きることはまだ当分できないだろう。僕もまだまだ休むことはできなさそうだ。前を見据えて、僕は今日もいつか出会う君を探しに走る。
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