※ギャグ
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「ミクリオ」
やけに優しく呼ばれた名前は確実に僕のもので、今微笑をたたえながら僕をじっと見つめているのはスレイだった。その瞳の中に混じる感情がなぜかいつものようにはうまく見通せなくて、やけに不安に駆り立てられる。ミクリオ。ぼうっとしている間に、またそうやって名前が呼ばれた。スレイはゆっくりとした動作で僕の頬に左手を添える。その際、さりげなく頬を撫でられた。その手つきは何かいつも触れあうときのものではなく、もっと、…いや、そんなわけがない。僕の勘違いだ。
と思った直後、スレイは僕に爆弾のような言葉を落とす。
「オレの子供、産んでくれる?」
思考は停止した。せざるを得なかった。待て、何から考えればいいのか。突然何を言い出して、なぜ僕にそれを求めているのか?
「オレの子供、産んでくれる?」
畳みかけるようにまた同じ言葉が発せられる。冗談にしてはそういう雰囲気が欠片もなさすぎるし、天族でしかも男の僕がそんな、子供なんて産めるわけがないことは、そういうことに疎いスレイでもさすがに知っているはずだ。わからない、まったくわからない。スレイのことはすべてわかっているはずなのに。
「…はは、本当下手だね、冗談」
「……」
とりあえず冗談として処理をしてみる。けれど向こうは、それを受け付けようとはしてくれないらしかった。ただじっと黙りこくって、微笑を絶やさないまま僕の目を見つめつづけている。その笑顔は、いつものようなものではなかった。だから僕は余計に戸惑っているのだ。こんな表情、今まで見たことがあっただろうか。
「ミクリオ」
そう呼ばれたとほぼ同時に腰を抱き寄せられた。スレイとの距離が急激に詰められる。いつもならなんてことない近さなのに、今は心臓が大きく跳ねた。スレイの顔が、僕にぐいと寄る。
「なあ、ミクリオ」
甘えるような声だ。けど、腰に回された手の力は強くなった。触れられている部分から、ひっきりなしに熱を引っ張り出されていく。まるで石にされたように動くことができなくて、抵抗の見せかけすらできない自分が少し情けなかった。頬にあてられていた手が顎に移動し、唇を親指でなぞられる。
「…ミクリオ」
「…名前だけ呼ばれても、何が言いたいのかわからない」
「ほんとに?」
今度は腰にあった手が移動して僕の下腹あたりにあてられた。そのあたりを緩慢な動作でさすられる。次にそれはさらに下へと滑っていき、内腿で動きを止めた。思わず漏れてしまいそうになった吐息は必死で噛み殺したが、おそらく、気づかれている。その予想は当たったようで、スレイの右手は僕の内腿をやけにゆっくりとなぞりはじめた。
「オレの子、産も?」
耳元でそう囁かれる。まだそんなばかばかしい話をしているのか。そう言いたい。でも、だめだった。もうよくわからない。下腹の奥が切なげに鳴いているような気さえしてきて、ついに思考が再起不能になったように思えた。
「…天族で、しかも男が子供を産んだ事例なんて」
「ないよ。でも、産みたいだろ?オレの子」
唇の形を一から十まで確かめるように、僕より大きくてたくましいその指が動いている。内腿をさする手にすべての感覚を集中させてしまう。その微笑は僕の内側を芯から溶かしていくようだった。ああ、だめだもう、はらんでしまったんじゃないか。
「…産みたい…」
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