ED後
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お兄ちゃんはいつもワタシを撫でてくれた。大きな手袋をはめた暖かい手がワタシの頭に乗って優しく動く。その瞬間が、ワタシは好きだった。今でも克明に思い出せる、何百年経ったって決して朽ちることのない記憶。その中でワタシは、お兄ちゃんにとってかわいい妹である自信があった。だってお兄ちゃんのワタシへの口癖は「かわいいよ」だったし、どんなに疲れて帰ってきてもワタシを撫でたとたん元気になっていた。だから、ワタシはいつまでもお兄ちゃんのかわいい妹であろうと決めた。またお兄ちゃんに会ったとき撫でてもらえるように、このままでいようと決めたのだ。お兄ちゃんがドラゴンになってしまった後も、ワタシはそんな想いを持ち続けていた。我ながら、バカげた話だけど。

最近ミクリオの背が伸びた。子供そのものだった前までの印象とは変わって、ほんのすこーしだけ大人びたように見える。髪もずいぶん長くなって、白を基調にした服はまあまあ似合っていた。ちなみに、長い髪が見ててうっとうしいから切ってあげると会うたび厚意で言ってあげてるのに毎回全力で拒否されるのは少しつまらない。任せてさえくれればかっこよくて前衛的なものに仕上げてあげるのにね。
今日も新しい導師を見学しに行こうとした道中、偶然同じ目的を持つミクリオに会い、一緒に街へ向かうことになった。道中でミクリオは最近の世界の状況やこの前行った遺跡のことなんかをぺらぺらと語る。その間何度も目が合ったけど、その目線は前より高い位置に向けなければならないことに少し腹が立った。ミボのくせに生意気なのよ。
「ミボ、縮みなさい」
「…は?なんだ突然」
「あなたが無駄にデカくなったせいで首が痛いのよ」
「ああ、それは悪かったね」
ふふん、と若干勝ち誇ったような笑みを浮かべるミクリオ。ほんとこの子って何百年経っても変わらないわね。
「どうして背、伸ばしたの?」
このままドヤ顔で居続けられるのも癪だから、不意を突いて訊いてみた。天族は生きた年数分背が伸びるわけじゃないから、ずっと前のままでいることだってできたはず。そのほうが次あの子に会ったときに気づいてもらいやすいでしょうに。それなのにミクリオは、変わることを選んだ。それはいったいどうしてなのか、少し興味があった。
「今のあなた、ちょうどスレイと同じくらいの身長よね」
「…そうだよ」
ミクリオはワタシに向かって切なげに微笑む。そして前を向いて、目尻あたりに彼の存在をぼかしながらそっと口を開いた。
「見てみたくなったんだ、スレイがどういう景色を見ていたのか」
ミクリオの瞳の中に、果てなく広がる大地が映っている。昔とは違う、先を見る目。なんとなく思い出したのは、旅に出る前のお兄ちゃんのそれだった。お兄ちゃんも、いつもめいっぱい世界を見ようと生きていた。
「次会ったとき、気づかれないかもしれないわよ」
「それはないさ。そんなには変わってないだろ」
「変わったわよ」
身長を気にしてた頃のミクリオちゃんが懐かしいくらいにはね。言うと、ミクリオはうるさいなと眉を寄せてつぶやく。微笑みを返してから前を向けば、どこまでも続く世界が視界に飛び込んできた。
そうね、悪くないかもしれない。ワタシはずっとお兄ちゃんのかわいい妹でいようと決めて、ここでの安住を定めていた。けど、一歩そこから出てみてもいいかもしれない。ワタシは女だしお兄ちゃんくらい大きくなるつもりはないけれど、少しだけ、お兄ちゃんの目線に近づいてみようか。
考えながら、ミクリオを見上げてみる。視線に気づいたミクリオは少したじろいでいた。また何か言われるとでも思ったのだろうか。本当、そういうところはかわいらしいんだけれど。
「かっこいいわよ、ミクリオ」
「……え、貶されるより怖いんだが…」
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