「今の君の理屈は明らかに矛盾してる」
「そういうミクリオだって、固定概念に囚われすぎてるんじゃないか?」
「根幹の事実を重視して何が悪い?だいたい君はいつもそうやって論点からズレる癖が…」
「それはミクリオだって同じだろ!ミクリオの考察はいつも……」

という風に、喧嘩した。こういう感じで遺跡を巡って喧嘩になってしまうことはよくある。今こうしてオレの家でオレに背を向けて座っているミクリオが口をきいてくれなければ目も合わせてくれないことも、いつもどおりの喧嘩中の態度だ。ちなみに、こういうとき何の反応も返してくれないわりになぜかミクリオはオレの傍から離れようとはしない。これは長年の謎だ。怒ってるならどこかに行けばいいのに。
「……」
背後のミクリオが立ち上がる気配がしたと思うと、暖炉の前に座るオレの隣に立って無言でバニラソフトを差し出してきた。さっきから甘い匂いがすると思ったら、やっぱりおやつを作ってたのか。得心しつつ、目の前のミクリオの無表情に気圧される。確かに、あとでバニラソフトを食べたいとオレは数時間前に言った。ミクリオは律儀だから、その約束をきちんと守ってくれたのだろう。ただ、申し訳ないんだけど、このタイミングで渡されるのは妙に怖い。
「あ、ありがとう…」
「……」
受け取るとミクリオは無言でベッドまで歩いていき、そこに腰を下ろして腕を組んだ。眉間に深い皺が刻まれている。それを見届けてから受け取ったバニラソフトに目を戻した瞬間、ある違和感に気がついた。バニラソフトの大きさがいつもの二回り以上小さかったのだ。これじゃ二口くらい食べただけでなくなってしまうじゃないか。しかも、今自分がいるのは暖炉の前。今もクリームは形を崩し始めている。慌てて暖炉から遠ざかり、なけなしのバニラソフトを食べた。二回ほど口に運べば、あっという間に姿を消してしまう。
これはヤバイ。そう確信した。ミクリオは今までも機嫌が悪いときオレにバニラソフトを作ってくれたことがあるのだけど、その際のクリームにはいつも量に特徴がある。少ないのだ、普段より。ちょっと怒っているときは一回り小さくて、かなり怒っているときは二回り小さい。逆に、上機嫌なときはそれが反対になる。そして今は二回り以上小さい。つまり、この世の終わりレベルだ。このまま放置していれば三日以上は確実に口をきいてくれないだろう。もはやこうなると意地なんて張ってはいられなかった。
「ミクリオ!」
立ち上がりながらそう叫ぶ。勢いをつけすぎて声が上擦ってしまった。呼ばれたミクリオもびくっと体を跳ねさせている。でも今は細かいことを気にしている場合じゃない。ベッドに足を進めて、眉間に皺をより深くしながら少し身を引くミクリオの肩を逃げないようにしっかりと掴んだ。
「ごめん、オレが悪かった!」
「…え」
ミクリオの瞳がまるく見開かれる。けどすぐにそっぽを向いて、オレから逃れようと身をよじった。でも今は、今だけは逃がすわけにはいかない。なんとか引き止めているために、強く掴んだミクリオの肩をそのまま押してベッドに倒す。その後自分の片膝をベッドに乗り上げて、完全に逃げられないようにした。ミクリオがまたびっくりしたようにこっちを見る。
「頼むミクリオ、話だけでも聞いてくれ」
藁にも縋る思いでミクリオの目をじっと見つめた。ミクリオは最初固まっていたけど、やがてなぜか顔を赤く染め始めた。
「ば、バカ、押し倒す必要がどこに…」
「あ、やっと口きいてくれた。よかった」
「そういう問題じゃないだろ!」
だいたい君は、といういつもどおりの口上が続く。ついでにものすごい形相で睨まれた。けど、会話してくれないよりずっといい。ミクリオと喋れないなんて退屈すぎて死んでしまう。
「ごめん、ミクリオ。オレ、またムキになっちゃったよな」
そう言うと、ミクリオの口が止まった。ちょっと困ったようにおずおずとオレを見て眉を下げる。それから何度か視線を外しては合わせてを繰り返し、やがてそれをオレの目に固定させてから小さく口を開いた。
「僕のほうこそ、意地を張ってたよ。…ごめん」
ミクリオは言ったあと、口元を少し緩めた。機嫌が戻った合図だ。つまり、仲直り成功。嬉しくなって、よっしゃー!と叫びながらミクリオに覆いかぶさり、その体を力いっぱい抱きしめた。喜びのハグってやつだ。腕の中からは、うわ、と焦ったような声があがる。
「こ、こら、スレイ!」
「明日も遺跡探検行こうな!」
「わかった、わかったから離してくれ!」
ミクリオはまた顔を赤くしてオレから離れようと両手で胸を押してきたけど、ついには諦めてため息をつきながら頭をベッドに沈めていた。
その後、ミクリオはまたバニラソフトを作ってくれた。今度はいつもの2倍くらいの大きさだ。にやにやしながら隣を見ると、ミクリオは赤面しつつそっぽを向いた。
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