「じゃあどうしろっていうんだ」
ガラスが割れる、ような感覚がした。目前のミクリオがひどく取り乱しながらオレを睨んで、けれどすぐに足元に視線を逸らした。白い手がぎゅうと握りしめられている。どうしろっていうんだってそんなの、この状況に放り込まれたオレこそ言いたい台詞だった。どうも何も、特別望んでることなんてない。けどミクリオは、冗談だよと言って笑ってはくれない。口の中が乾きはじめる。ひどく困った。どうしよう。
「僕は、なんにも求めちゃいない。君がどこを向いていたって構わない。君の向いているほうに向かうつもりだ。そういう覚悟をしてる。それでいいだろ。それじゃだめなのか」
「だめなんて、ひとことも言ってないだろ」
なあミクリオ、オレに合わせなくていいよ。たまには別のもの見てみないか。オレはそう言っただけだ。ミクリオのために言ったつもりだった。でも結果的に、ガラスが割れた。どうしてだ。何をそんなに怒ってるんだ?
「君はそういうやつだ。そうだ、わかってる。だから僕は、…そうだ」
「なんだよ、なんにもわからない…」
困り果てている。オレもミクリオも。歯切れの悪い言葉に戸惑うものの、問いつめようと張る声の大きさはどんどん萎んでいく。
「だから」
ミクリオが弱々しく言葉を発する。ミクリオは強い。だからこんな姿、今まで何度も見たものじゃない。どうしよう、本当に、どうして自分がこんなに焦っているのかすらわからない。
「君が好きだ」
ガラスがまた割れた。今度はさっきと比べものにならないくらい、ひときわ大きい音を立てた。は、と唇からこぼれたのが声なのか吐息なのか、それすら自分でもわからない。まさか、と胸中で何度も繰り返した。親愛以外に意味はない。意味はないに決まっているけれど、でも、このタイミング、ミクリオの結ばれた唇、やけに潤んだ目。
「だから僕は、…こう言ってるんだ。ばかばかしいか、おもしろいか。みにくい嫉妬ばかりして、なんとか君につなぎとめられようとしている僕は、哀れだろ」
とうとうと語るミクリオの肩は震えていた。がしゃんがしゃんと、もはや聴き慣れてきすらしている音が耳元で反響を繰り返す。ミクリオは強かった。オレの前でだって、誰の前でだって。けれど、じゃあ今オレの目の前にいるのはいったい誰だ?ミクリオにとってオレは幼馴染で家族でライバルで、そしてなんなのだろう。ひどく困った。オレにとっての幼馴染で家族でライバルであるミクリオが今、新たな存在概念を付加させようとしている。瞳が水の矢に射貫かれた気分だった。頬が熱い。どうしよう、胸がどきどきするのだ。
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