「久しぶり!」
いつものジュネス、いつもの場所で、元気だった?と足立さんはいつもの笑みを貼りつけながら俺に対して軽く手を上げた。俺はどう返事をしていいかわからず、曖昧な笑みを浮かべながら小さく手を上げる。こつこつとこちらに向かってくるその足音が、やけに耳についた。
「元気だった?いやあ心配したよ、急に来なくなっちゃうからさ」
「…はあ」
よかったよかった。そう言って彼は俺の肩を2、3度ばしばしと叩く。少し痛いくらいだ。
冗談かな?と胸中でぼんやりと考える。だって俺と足立さんは、昨日の夜に我が家で会っている。いつものように先に潰れた叔父さんにしょうがないなあなんて言って笑ったあと、足立さんは千鳥足でうちを後にした。本当に普段通りでしかない、ありふれた一日の中に足立さんはいた。
それが今日会ってみるとこれなのだ。そりゃあ、冗談でしかない、とは思う。けれどなんだかどうしても違和感が拭えなかった。足立さんの態度といったら、まるで本当に久々の知り合いに対するそれのようなのだから。
「ぜんぜん変わってないね、君は。まあそりゃそうか。ところで、なんでこんな長い間顔見せなくなっちゃったんだい?」
「……あの、足立さん。つかぬことをお聞きしますが」
冗談ですよね?なんて。大まじめな顔で言う俺を、つまらない子供だと彼は笑うだろうか。それならそれでいい。むしろ、そうであれば安心だ。
しかし、まったくおかしいことに、現実はそうはならなかった。足立さんが驚いたような顔をする。それからすぐに、ぷっと吹き出してこう言った。
「ああ、5年でちゃんと変わったとこはあったんだ?ジョークなんて覚えちゃってさ」
けらけらと笑う。その笑い声が鼓膜を震わせるたび、心が現実から切り離されるような感覚に囚われていく。5年?何の話だ。
「しかしさ、最後に君んちで飲んだときはまさかこんなにご無沙汰するとは思いもしてなかったよ。まあ、飽きちゃったんでしょ?」
「何にですか」
「このゲームに」
冷や汗が出た。これは確実に妄言だ。けれど、じゃあ、なぜこんなに焦っている。ゲームと言われた瞬間、なぜ俺は合点がいったような気持ちになった?しかも足立さんの俺との最後の記憶は、昨日の俺の記憶と一致している。
ふと思い立って、俺は勇気を振り絞って訊くことにした。景色がぐわんぐわんと視界をがなり立てる。
「足立さん」
「ん?」
「このゲームに飽きた俺のこと、怒ってるんですか?」
しばらくの間があった。ゲームオーバーにでもなるのかと思った。しかしそれは杞憂のようで、彼はふふふと心底おかしそうに笑う。その目が、三日月型に光った。
「また来てね」
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