大学2年の時、初めてニコチンを体内に招き入れた。ひどくむせてしまって、付き合ってくれていた叔父さんを心配させてしまったものだった。それから幾月が経ち、今では携帯灰皿が手放せない日々となっている。浮かせる煙が自分の意思次第で形を変えるのが面白い。 霧散の一途をたどるそれらを、時には丸い輪にできるのだ。彼もそういうところが好きなのだろうなと勝手に思い込んでいた。
「久々だね」
今日、足立さんが夢に出てきた。足立さんはそう言って俺に軽く片手をあげていた。よれたネクタイにぼさぼさの頭。あの頃のままだった。俺は吸っていた煙草を携帯灰皿に押しつけて、すぐさま彼に駆け寄った。すると彼は俺の灰皿を指差す。ああ、煙草。吸いはじめたんです。あなたも吸っているんじゃないですか。そう問うと、彼は曖昧な笑みを貼りつけて、煙のように消えてしまった。彼の消えたあとには、円のような煙がぽつんと浮かんでいた。夢だ。味気ない。けれど、なんだか、腑に落ちてしまいそうだった。足立さんは煙草を吸わないのではないかと。
あなたが持っていたライター。
あれは、自分のためのものではないのでは。
あなたからした煙草の匂いは、等しく堂島の匂いだった。
足立さんから共犯者の役割を与えられて、数年が経った。最初は頻繁に連絡をくれていた彼も、今やこっちが必死に電話をかけたって決して出てはくれない。彼はおそらく新しい小さな幸せや、生きる意味を見出だしたのではないかと思う。まったくの勘だけれど。そんな彼のことを考えると気が狂いそうだが、だからといってどうしたらいいかわからないまま、日々は刻々と過ぎてしまった。あの日、彼のライターで燃やされた正義。あれに報いることも、あれを完全に裏切ることも、俺にはできやしなかったのだ。けれどあのライターを見たときから、俺はこうして煙をふかすことを決めていた。決めていたのに、ああ、なんだか無駄だという気ばかり起こるんです。俺はきっとなにか、大きなものを見誤っていたのだと。円に浮く煙を見るたび感じるのです。
ずいぶん灰の長くなった煙草を灰皿に強く押しつけた。今さら元には戻れないし、どうなることもできない。けれど、せめて彼がこの同じ空の下で煙草を吸っていることを、なんだか不思議なほど盲目に俺は祈っている。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -