「君のすべて、君にとって良いものになっている。……僕を除いてね。君にとっての大部分を占めてしまったことが僕のなによりの失敗だった。ごめんね。君のことを友人だと言った僕の厚かましさ、それに終止符を打ってくれた君のことを僕はとても好きさ。君の……あまり人間らしくないところが、なんだか近しくてね。君でよかった。殺してくれたのが君で……。ごめんね」
夢を見ていたが、起きたときにはそれも忘れていた。なにか大切なことのなかにいたような気もするが、気のせいかもしれない。とりあえずひととおり記憶を巡ったが、なにも思い出せはしなかった。

肌寒い夜のことだった。鍵を閉めたはずのドアから何かが入ってくる気配がした。アイギスか、とそれに話しかけ、アイギスとは誰のことかと疑問符を浮かべる。
「もうすぐだね」
「もうあとほんの少しだ」
それは言った。召喚器を探したが、そもそも召喚器とはなんだ?まず今は影時間なのかと考えたが、そもそも影時間とはなんだ。
「君にお別れを言いたかったんだ」
綾時は僕に言った。だから誰だ。ベッドから起き上がり、綾時という見知らぬ人間の姿を確認する。電気のついていない部屋にも、大きな月が作る明かりはひどく強烈だった。彼はすこし泣きそうな顔をしている。
「なんだか、寂しいよ」
「……とても寂しい」
また泣いてしまうのではないかとはらはらした。また?一度俯いた綾時は、再度顔をあげて僕に微笑む。
「何度でも言うけれど、僕は君の友達になれて本当によかったんだ。この気持ちは、宝物だよ」
ピンとこない。次にはっとした。思い出せなかった夢の内容を思い出した。綾時の涙が流れている。それを見るのはつまり3度目だと、そういうことで間違いはないようだ。
ああ、そうか。
「そうさ」
「世界はもう終わるのか」
「うん」
忍び寄る夜は凍りつくようだった。そうだ、僕は選んだのだ。
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