晴れてとらわれの身となったジブンのもとに今日担当検事が面会のためやってくるらしい。ここで待っていろと看守に促されいま面会室のガラスを前にしている私は、ああ担当検事とはいったい誰なのだろうかという取るに足らないことを考えていた。僕にどれくらいの罰を与えるのだろう。得体の知れないものを裁くというのはどんな気分なのだろう。俺はなんという名で呼ばれるのだろうか。様々に思考は浮かんだが、しかしいくら想像したところで感じることなど何ひとつない。無駄な時間しかとらないと判断し、すぐにその考えは遮断する。その後順当に、向こう側の扉ががちゃりと大袈裟な音を立てて開いた。細い光と共に何者かが部屋にゆっくりと入り込んでくる。その特徴的なシルエットから、彼がすぐに夕神迅だということに気がついた。そしてジブンの担当検事が彼だということにもすぐに察しがついた。わざわざどうして夕神迅が私を担当するというのだろう。今まで自分を苦しめてきた相手を、自分自身の手で裁きたい。そう考えるのが一番妥当か。夕神迅はつかつかと何かを噛みしめるように椅子の前まで歩み、まだ僕の顔を見ずに椅子を引いた。そしてそこに腰かける。そのまま彼はしばらく俯いていた。沈黙が四角く澱んだ部屋を完全に支配する。俺にかける言葉は何もない。それどころか、私はいま誰であればいいかもよくわからない。手持ちぶさたという体でただじっとしていると、やがて夕神迅は僕に対して「オッサン」と発した。そこで俺は、夕神迅は番轟三に会いにきたのだと得心することができた。顔を貼り替えて、なんだいユガミくん、と大声を部屋に響かせる。そのときユガミくんは顔をあげて、ようやくジブンの顔を見た。そうしてすぐはっとしたような表情を浮かべて、長いような短いような時間の中で瞳にジブンを映し続けていた。やがて彼はまた下を向いて本日何度目かの静寂を駆使する。こんなときどんな感情を露わにすればいいか思考し、「困る」という感情にジブンが行き当たったとほぼ同時にユガミくんは静かに口を開いた。そうしてジブンに言葉を投げる。

「好きだ」
「今気づいた」

予想外の言葉が出たな。そう思った。それだけのはずだったのだが、奇妙なことにそうではなかった。ジブンに今、あるまじき感情の続きを見たのだ。その感情の正体こそジブンには見抜くことができなかったが、彼はジブンにとんでもない裁きを与えたと、それだけはわかった。ジブンはこれから、死者を引きずりながら彼に詫び続けなければならない。そうなのだろうユガミくん。ズボンに落ちていく水滴をぼんやりと眺めながら、ああユガミくん、と彼に語りかける。

「ジブンはまた間違えているか」
「…自分で考えなァ」
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