死ネタ
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ある夏の日、愛家の前で足立さんと出くわした。何か違和感を感じるなあと思って足元に視線を下ろすと、その足元というものが見当たらない。彼には足がなかった。

「なんで足ないんですか」
「さあね」

愛想なくそう答える足立さんに困惑していると、彼はそんな俺を無視して突然祭りに行きたいと言い出した。そういえば今日は祭りがあるって陽介が言っていたな。いいですけど、と恐る恐る相手の表情を覗き込みながら頷くと、足立さんはなんだか嬉しそうにほんの少しだけ笑った。いつもの作ったような笑顔ではなかった。たぶん今日は空から槍でも降るのだろう。
脇に夜店の立ち並ぶ石造りの道を踏みしめながら、足立さんと祭りの風景を楽しむ。何か欲しいものはありますかと問えば、りんご飴なんていう意外な答えが返ってきた。自然と早まる足で屋台まで向かい、目当てのそれを2つ手にする。なぜか店主に怪訝な眼差しを向けられたが、気にしないでおくとしよう。しばらくふたりで飴を味わいながらぶらぶらとあたりを歩き、やがて人の波から外れた奥道へとたどり着いた。休憩しようかと足立さんが言うので、近くにあった大きな石に腰かける。静まり返った世界の中、どこかぼんやりした足立さんの横顔をなんとなく見つめてみた。とぼけたような表情を瞳で確かめるようになぞっていると、なんだか急に自分は足立さんのことが好きなんじゃないだろうかなんて感情が胸を渦巻き始め、気づけば俺は足立さん好きですと唐突に彼に告白をしてしまっていた。すると足立さんは知ってたよ、わからないほうがバカなくらいだった、と顔を歪めるようにして笑う。俺はいま急速に彼への想いに目覚めたのに、どうして彼はずっと前からわかっていたみたいに言うんだろうか。とりあえず気持ちも通じ合ったし、ちょうど人気も皆無なのでセックスをすることにした。今の足立さんは乱暴に抱くとぼろぼろと壊れていってしまうように思えたので、優しく丁寧に愛撫していく。キスマークもたくさんつけて、いい頃合いになってきたのでするりと手を下ろし彼の太股にそれを這わせようとした。しかし何か違和感を感じる。彼の太股を半分ほど撫でたあたりで、急にその感覚が消えるのだ。ふとそこに視線を下ろし、ああそういえばそうだったとすべて納得する。彼には足がなかった。足立さんの顔を見やると、なんだか遠くを眺めるような目をして彼はこう呟く。

「こっちに戻って最後にすることがセックスだなんて思わなかったよ」

そこで俺は本当にすべてを思い出した。ああ足立さん、そういえばあなたは死んでしまっていたんでしたね。砂利に転がったふたり分の飴の色は足立さんの血のそれによく似ている。そうなんです、大好きだったんですよ。ずっとね。
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