足立さん、結婚しましょう。今日も俺は日課にさえなったプロポーズを敢行した。敗戦の色は澱みさえなくただただ濃い。視界は諦観の様相を示していたし、もう耳栓をしてくればよかったってくらい聴覚にも希望はなかった。目前の足立さんはしばらくじっと俺を見る。いつもならこのあたりで気持ち悪いという言葉の刃物が俺を抉るのだけど、今日の彼はなぜだかなかなか俺を殺そうとしない。なんだか、俺の知ってる足立さんじゃないような顔さえしているし。足立さんは大きな沈黙を二人の間に侍らせて、しばらくしてやっと口を開いた。そうして恐ろしい言葉を口にしたのだ。

「しようか、結婚」

君がしたいなら、早く籍を入れに行こう。足立さんは目を細めて言った。俺の知ってる嘲りの足立さんじゃなくて、みんなが知ってる平穏の足立さんの顔だった。俺は唐突に恐怖を覚える。ぞっとして、鳥肌が立って、背筋が凍る。だめだと思った。彼から逃げなければいけないと、理屈じゃなく本能が提唱していた。そうして何度も彼に謝る。ごめんなさい、やっぱりできない、あなたと一緒になれません、ごめんなさい、ごめんなさい!繰り返し繰り返し口にした。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい!足立さん、足立さんごめんなさ、目が覚めた。俺は自室のベッドに身を横たえている。カーテンから朝日が差しこんで、部屋を始まりの色に照らしていた。よかった、あれは夢だったんだ。汗でべとついたシャツも今は気にならず、ただ安堵に胸を撫で下ろす。今何時だろうと時計を見るために上体を起き上がらせようとしたとき、ちらりと視界の端に何かが映った。心臓が跳ねる。誰かが部屋の中にいた。震える体をなんとか操って横を見ると、そこには薬指に指輪をはめた足立さん、が、「おはよう!」
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