いちおう夢十夜の第一夜パロ
※死ネタ
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なんだかもう死んでしまいそうな顔をしていた。土気色の顔をしているわけではないけど、ほんとうに死んでしまいそうだった。だから僕は、ああ死ぬのかなあと、そこにある感想を思考することなく漠然と思いにした。アルヴィンがふっと笑う。目の奥に、いつものような皮肉が込められていない。皮肉屋が皮肉を断ってしまったら、果たしてその人はなんだと言えるのだろう。アルヴィンは今から何になろうとしているのだろう。

「俺は今から死ぬよ」

そういうことらしかった。僕は驚かない。やっぱり、なんて言葉がぽんとひとつ頭に浮かぶ程度だった。ほの暗く光る赤は底知れない輝きばかり纏う。なんだか、なんだか。なんにも考えたくないと思った。そう思っている時点でもう考えているんだけど。歪む唇の色は良い。肌の色だっていつもとなんら変わりがない。けれど彼は死ぬ。自分でも不思議だけれど僕にはそれが断言できた。嘘であってほしい事実はいつだって嘘にはならない、皮肉なもんだね。はてこれは誰が言ったんだったかな。
僕はねんごろに枕元に手をついて、真上から彼を見下ろした。まっすぐ僕を見据える彼。いま考えれば、悩ましげな瞳が好きだったのかなあ。と思う。いいや、好きだったのかなあ。なんだかよくわからない。

「ほんとに死ぬの?」
「死ぬ死ぬ。おつかれさーん」
「また嘘ついてるんじゃないの」
「残念ながらこれは。いや、おたくにとっては喜ばしいことかな」
「死なないよね」
「死ぬよ」

死ぬよ。嘘じゃなかった。陽の光が眩しい。僕はなんだかいろんなことが悔しくなってアルヴィンの頬をそっと撫でた。彼は笑う。幸せそうだねと口にすると、今まで生きてきた中で3番目に幸せだと彼。きっと1番は故郷にいた頃で、2番目は、ミラや仲間たちと一緒にいたときなんだろうなと思う。合っているかは実のところわからないけれど、尋ねるまでもない気がした。彼の無骨な右手が僕の腕を掴む。手は古傷がたくさんたくさん残っていた。優等生、とアルヴィンが声を出す。こんなときでも名前で呼ばないんだね。

「100年待ってくれとは言わねえよ」

だから俺の代わりに100年生きてくれないか。低い声に乗った言葉が鼓膜を揺らす。代わりなんてないし、代われるわけもないことを知ってのうえでアルヴィンはこう言っているんだ。僕は指先に力を込めてシーツを手繰り寄せた。うんとしか言えない。彼のことは嫌いだったけれど嫌いじゃなかった。愛していなかったけれど焦がれていた。手離したかったけれど放したくはなかった。もうすこしだけ彼を知りたかった。なんだか知らないけど僕は泣いている。彼の手はまだ暖かい。でもアルヴィンはもう死んでいた。
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