気づけば僕は君とお弁当を食べていた。僕らはピンク色の空にぷかぷか漂う真っ白な雲を見上げながら、そよそよ揺れる草原にシートも何も敷かず腰を置いて卵焼きが美味しいだのデザートもたくさんあるだのと他愛もない会話を繰り返していた。腕によりをかけて互いに作り上げてきた弁当をむしゃむしゃ頬張る。君のお弁当の具には一切の例外もなくカレーがかけられていた。コロッケもハンバーグもウインナーも、全部カレーの味がする。頼りの白米にも例によってカレーがかかっていた。それでも僕は美味しい美味しいと君の手料理を褒めちぎっていて、君は「早起きして作った甲斐があった」と大変ご満悦の様子だ。雑談を交わしながら第5のカレー被害者、ロールキャベツに箸を伸ばす。君が身を乗り出した。いつも新しいおかずを食そうとするたびこうして穴が開くほど僕を凝視してくる君に胸中で苦笑した。ぱくり、ごくり。同時に鳴る擬音。僕がロールキャベツを口に含み、君が息を飲んだ音だった。風がそよいで、僕の作った弁当に入っていた昨日の晩御飯の生き残り、キャベツが彼方へフライアウェイと洒落込む。しかし君はそんなこと気にも留めずに、僕の咀嚼シーンを見つめ続けていた。まるく大きな瞳が瞬きひとつせず僕の挙動を網膜に焼きつけている。正直ちょっと怖い。

「ど、ど、どう?」
「うん、これも美味しいよ」
「よ、よかったあ!不味いって言われたらどうしようかと…」
「あはは、君は心配性だなあ」

解放されたように君は肩の力を抜いてほっと胸を撫で下ろす。ああよかったとまた呟く君がいじらしくて、少し可愛いなと思えてしまった。恋する女の子はどうしようもなく愛らしいものなんだと僕は君から教わったよ。ふわわっと空にカーテンが引かれ、2秒と経たぬ間に開け放たれたそこには美しくかかった虹の姿。絵本のようなこの場所に対する疑問とか恐怖とかのネガティブな感情は捨て去られ、胸の中で湧き起こるのはただすごいだとかきれいだとかそういうものだった。そんな中、ふにゃりと、とろけるような顔で君が笑って、マシュマロのような声で言葉を紡ぐ。ああそういえば、まだデザート食べてない、よなあ。

「ね、楽しいね、多蕗くん」

ぐるりと世界がまわった。ピンクの空も、虹も、草原も、二つの弁当も、君も、僕も。ああそういえば、朝ご飯のにおいがする、ね?
ピピピ、無機質な電子音が僕を案じていた。それを黙らせむくりと体を起こす。着崩れたパジャマと乱れた布団、隣を見やれば兄貴の姿。なんら変わりないいつもの朝だ。ただいつもと少し違うのは、時計の針が見慣れない時間に到達していることだろうか。ああ、台所からあたたかい匂いが漂ってくる。端的に言えば僕は寝坊したのだ。
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