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「オカリン?」
 薄く目を開けると、目の前でまゆりがこちらを見下ろしていた。
「いま起こそうとしたんだけどねえ、オカリンてばうーうーって、苦しそうだったんだよー?」
 まゆりの話し方はなんとなく文字表記すると平仮名が多そうなイメージがある。それに俺は安堵するのである。眠ってしまっていたのか、とやれやれ思いながら何でもないと言い瞬きをするとつうと涙が一筋頬を伝っていった。
「あれえ、オカリン」
「……あ」
 俺がそれをどうにかする前にまゆりの指先が拭い去ってしまった。言い訳をする前に、こんな失態を晒すなど、しかもまゆりの前で!ほら見ろまゆりの表情が曇っている、これは良くない。
「こわい夢でもみたの?」
「……いや!」
 現実に戻ってひどくほっとしていた自分が先刻そこにいたのだからその通りであるが、まゆりの優しい瞳が翳りを帯びながらこちらを見ているのだ。勢いよく俺は立ち上がるといつも通りの高笑いをする。そして勢いよくいつもの、お約束のポーズ。
「この狂気のマッドサイエンティスト、岡部倫太郎が!夢など見るわけがないだろう!」
 まゆりはこちらを見て一瞬驚いた顔をした。そしてくすくす笑ってそうだねえと言うのだ。何がおかしい、尋ねるとなんでもないよとやはり笑い続ける。俺はそのとき、何か間違いを犯してしまったことに気付いていなかった。



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