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 ディルムッドとあんなことになってから何事もなかったかのように部屋に帰って、荷物を置いて、お風呂場に行って、制服を脱いで、洗濯物をネットに入れて洗濯機に押し込むと、そこでなぜか、わたしはへなへなとへたりこんだ。ようやくことの重大さに気付いた。耳の奥に、切羽詰まったようにわたしを呼んだ彼の声が残っている。大切そうにわたしに触れた感触も残っている。とたんに自分ですらよくわからないあそこがきゅうっとなって、なんだか切ない衝動に襲われるのだ。彼はすでに大人だった。わたしはまだまだ子供だった。長い間一緒にいた気がしたけれど、やっぱり違った。どきどきする。彼を思い出すと、切ない。わたしは早くお風呂に入って寝てしまおうと、なんとか立ち上がった。



 次の日の学校の帰り、わたしは自分の家に帰るより先に彼の家に行った。わたしは彼の家の鍵を持っているし、彼もわたしの家の鍵を持っている。そして今日の彼はアルバイトがおやすみなことを知っていた。彼は昔から部屋にカレンダーを置いて、スケジュールを書き込む癖がある。
「ディル」
 ノックして返事があったので彼の部屋に入る。彼はベッドに仰向けになって携帯を弄っていた。
「アルトリアか。どうした?」
 彼は顔だけをこちらに向けて穏やかに笑った。きのう、本を借りたいと言ったので、借りに来ましたと言うとそうかと言って立ち上がって本棚からそれを取り出してくれた。知らない作家の知らないタイトル。彼はあんまり本を読むような性質ではないことを知っているが、そんな彼が買うのだから、よほどおもしろいのだろうと思う。彼がこの本を読んで感じたことを、わたしも感じることができたらいい。
「アルトリア、それ、続き物だから、気に入ったら続きも貸すからな」
 わたしの真横で彼が言う。低くて、頭のなかに染み渡るような、彼の声。また。まただ。胸が締め付けられて、あそこがきゅうっとなる。痛かった。きのうは確かに痛かった。でも、ぎゅっと抱き締められたあのあたたかさは忘れられない。彼の視線も、たまらなかった。わたしは、わたしは、
「……ディル」
 わたしは。
「どうし、」
 彼が言い切る前に彼にしがみつく。固いおなか。厚い胸に顔を埋める。筋肉がすごくて、わたしとぜんぜんちがう。クラスの男子と、ぜんぜんちがう。
「ディル、わたし、きのうのこと、忘れられないのです、ディル」
「……あれは、…………」
「きのう言った通り、わたし、ディルのこと、すきです。だから、その」
 彼を見上げたら、困ったような、痛いのをがまんするような、嬉しそうな、よくわからない顔をしていた。
「……アルトリア、あれは、なかったことにするんだ」
「いやです」
「嫌じゃない、だめなんだ、悪かったなんて言わないが、もう、駄目だ、あれは」
「わたし」
 彼の言葉を遮って、わたしは続けた。
「切ないのです、おねがい……」
 泣き出したくなる。わたしは必死に彼にしがみついたまま言った。するとしばらく沈黙があったのち、頭上で彼が、くそ、と悪態をついたあと、わたしの頭を抱き締めた。





「……う、うう」
 また声を出してはいけない交わり。彼の部屋の階下には誰もいないけれど、万が一外に声が漏れたり、彼の家族が帰ってきたのに気付かなかったら、おしまいになる。年が離れている恋愛をして、怒られるのはテレビのニュースを見る限り、いつもおとなのほうだ。わたしは、教師が生徒にわいせつな行為をした、だとか、そういったニュースを見るたび、その人たちがほんとうに愛し合っていた可能性を考えないのだろうかと思う。わたしたちだってわたしが望んで始まったことなのに、もしばれたら、怒られるのがきっと彼なのは、おかしいと思うのだ。
「あ、でぃる、うう、う」
 彼がわたしの足の間に顔を埋めて、あそこを舐めている。きたないと言っても、彼は無理矢理こじ開けて、舌を這わせるのだ。
「……昨日より、濡れてる」
 彼がぼそりと何かを呟いたが、わたしは彼から与えられるきもちいいでいっぱいで、あんまり聞こえなかった。
「ふ、ううう、……!」
 声を押さえるために彼の枕を顔に押し付けた。シャンプーのにおいがする。なんだか余計に、きもちよくなる。ゆるやかに、彼の舌がわたしの中に入ってくる感触。ぐにぐにと粘膜を舐められて、わたしは背を弓なりに反らした。頭が真っ白になる。枕に噛みつく。とろとろになったわたしのあそこに、彼の指がゆっくりと入ってきた。入ってくるとき、ちょっと痛かったけれど、くん、とじんわりあたたかくて声が出そうになるところを押されて、わたしは、こわくてきもちよくて、死にそうだった。
「……もういい、でぃる、もお」
 わたしはびくびく震えながら、枕を置いて、彼の頭に手を伸ばす。彼は顔をあげる。きれいな顔。見慣れているはずなのに、あの目で見られていると思うだけで、心臓がばくばくする。
「もう、でぃるのあれ、ください、でぃるも、わたしで、わたしみたいになれるなら……」
 恥ずかしくてしかたないけれど、彼にもきもちよくなってほしい。ぎゅっとされたい。彼はほんとうにつらそうな顔をして、わたしに顔を近づけると、ちゅ、とキスをしてくれた。そして、彼のズボンを脱ぐ音が聞こえて、わたしの足を広げると、わたしのあそこに彼のあれを、くちくちとすり付けた。
「え、あ、や……」
 きもちいい。もどかしい。あそこがきゅうっとする感覚が、今まででいちばん大きい。わたしは彼にキスをされながら、またびくびくしていた。そうして、軽く背筋に電流が走る感覚。そのとき、わたしのあそこに、彼のあれが、入ってきた。
「う、うん、ん……!」
 やっぱりすこし痛い。でも、きのうよりはずっとまし。彼のあれがゆっくりゆっくり奥まで入り込んできて、彼は動きを止めた。
「どこが、気持ちいいか?」
 彼はわたしに聞いた。聞きながら、とてもゆっくり動いた。ずりずりと、奥壁をこすられる。みちみちと彼がわたしの肉を押し広げている。きもちいいところ。どこだろう。よくわからないけれど、彼がさわるところは、ぜんぶきもちいい気がした。けれど。
「!」
 おなか側の奥が、いちばんへん。じわじわと波のように押し寄せてくる感覚。彼はわたしのようすで何かを感じ取ったのか、そこばかりぐずぐず突いた。わたしは声にならない声をあげる。すごい、よくわからないけど、すごい。彼がわたしにキスをする。アルトリア、と名前を呼ぶ。きもちいい。しあわせだなあとぼんやりおもった。わたしは、彼にしがみついて、彼の動くのにまかせていたら、つま先がひんやりしてきて、また、あたまがまっしろになってしまった。





「わたしに遠慮なんてしないでください、もう」
 脱ぎ散らかした制服を着て、わたしは彼に向き直って言った。
「ディルからじゃなくて、わたしから。だから、なにか起こっても、わたしがなんとかします」
「いやそれは良くないな」
「どうして」
「男が女を守るのは当然だろう。そういうことだ」
 彼がわたしの頭を撫でながらそう言ったので、わたしは赤面しながら、でも、反論しようとする。そうしたら、彼は立ち上がった。
「今日はうちの家族の帰りが遅いから、適当に晩飯を作ろうと思っているのだが、食っていくか?」
 わたしはとても嬉しくなって、反論することも、本を借りることも忘れて頷くと、彼と一緒にキッチンへと向かっていったのだった。




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