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「おお、セイバー!」
 嬉しそうに寄ってくる男に一瞥もくれないでわたしは去ろうとする。彼の側はろくなことがない。しかし今日の彼はいつもと様子が少し違った。
「見よ、この板! こんなものであらゆることが出来るとは、現代の雑種もなかなか愉快なものを発明するものなのだな」
 暇潰しに購入してみたという、彼曰くアイパッドというものらしいが、わたしはひとつも興味が湧かず、ああわかったわかったと言って無視をしようとしたらお前も触ってみろといくらか楽しそうに彼はそれをけしかけてくるのである。
「ああもう、わたしだって忙しいのだ! 貴様もこんなものにに気を抜かしていないで少しは」
 そこまで言っていつも通り彼の腕を払うように機械を払ってしまったせいで、彼の手から離れたそれは、あっけなく地面に落ちて、嫌な音を立てた。
「…………」
 わたしも彼も一瞬呆然と俯せに倒れる板を眺めていたが、わたしは血の気が引くのを感じた。慌てて拾い上げ、あらゆるボタンを押してみるも、板はしんとしている。いくらなんでもここまでする気はなかった。
「おい、セイ……」
 彼が何か言いかける前にわたしは頭を下げた。
「すまない英雄王、こんなことになるとは思わなかったのだ、どうか」
 彼はわたしが頭を下げるとは思いもしなかったのか、少し驚いた顔をして笑った。
「……ははっ、別段こんな安物、気にはしないが」
「いや、弁償させていただく。いくらだ」
「お前は金を持ち合わせているのか? それよりも、我は別の方法で誠意を見せてほしいなあ」
「別の?」
 実際持ち合わせには心もとなかったので、少し安堵してわたしは彼を見る。
「今日一日、我の言うことをきくということで手を打ってやろう。安心しろ、自決しろなどとつまらぬことは言わぬ」
「…………」
 正直言って嫌で仕方ない要求であったが、彼の気がそれで済むのなら、飲み込まざるを得ないと思った。
「……了承した」
「良い。ではその使い物にならなくなったそれを寄越せ」
 わたしはよく見ると画面にもヒビのいっていた機械の板を、彼に手渡す。彼は一旦それを、王の財宝の中に押し込んだ。そして行くぞ、と言って歩き出す。わたしは大人しく従者のように彼の後ろをついていった。



 小間使いのように扱われるものかと思っていたが、わたしのスーツが気に食わないと言って彼は、わたしを服飾店へと引っ張ってゆき、彼の気に召したらしいふわりとした膝丈のスカートと、少しだけフリルのついたブラウスを着せ、華奢な靴を履かせた。わたしは複雑な気持ちになったが、そういった服は嫌いではないので、気に入ったのは事実だった。そうしてまるでわたしのことを恋人のように扱うので苛立つ。望んでもいない服を着せられたって、おいしいアイスクリームを食べさせられたって、優しく手を引かれたって、彼への好感度が上がるわけでもなく、何か裏でもあるのではないかと訝しく思う気持ちはますます強くなっていくだけなのである。



 空が橙に染まっている。暖かい光が辺りを優しく包む美しい時間だと思った。彼もそろそろこんな生ぬるいことに飽きてきただろうと思っていたら、無言でわたしの腕を引っ張ると、冬木市民でも知る人ぞ知るといったような神社へと連れてきた。後方の林に囲まれ、社こそそれなりの大きさがあるものの、草の鬱蒼と繁った、忘れ去られたような場所だった。如何にもな雰囲気に嫌な予感がする。彼はわたしを社の側の石段に立たせると、スカートを上げろと言った。わたしの目を見る彼の顔が夕日に照らされ、ほんの少し神々しさが見える気がする。その顔がいやらしく歪められた。思った通りの展開にいっそ清々しさを覚えてわたしは思わず乾いた笑みを漏らす。
「わかった」
 羞恥心を見破られたら悔しいと思ったので、何でもない顔をして、スーツの入った紙袋を側に置くと、スカートを上げた。アイリスフィールが見繕ってくれた、彼女の趣味らしい白地に淡い青のレースと小さな桃色のリボンのついた下着が露出する。こんなときにこんな下着で、自分に腹が立った。
「思っていたより可愛いげのあるものを身に付けているのだな。実に良い」
「お前のために着ているわけではない!」
「ああ、解っているさ」
 彼はわたしにそのままでいるように言うと、ブラウスのボタンを丁寧に外していった。ぷちぷちと、明らかにわざとゆっくり外しているのがわかる。くつろげられる前。
「下と揃いのものか。はは」
 言いながら片手でわたしのブラジャーをずり上げた。そして間を置かず少し頭を屈めてべろりと胸元に舌を這わせる。そしてスカートをたくしあげているので風通りの良い太股をするすると撫でた。彼の手は思っていたより熱くない。わたしの体温が高いのだろうか。もしもそうだったなら、自分が許せない。
「ふ、あ……」
 ちゅう、と乳首を吸われ、かりと甘噛みされる。あり得ないはずなのに何故か下半身に響いて、思わず体が強張った。
「おや、騎士王もそんな顔をするのだな」
 段差のせいで彼と同じほどの高さの目線なのが余計に不愉快だった。彼は胸元から顔を上げるとわたしの後頭部を掴み口付ける。突然の行為にわたしは目を見開き、首を振って逃げようとしたが押さえつけられているせいでどうしようもなかった。舌が入り込んでくる。ぬるりとした粘膜が唇の裏をねぶり、わたしの舌を絡めて蹂躙する。辺りが静かな分、くちゅくちゅと水の音がよく聞こえて、膝から力が抜けそうだと思った。
「手を離すな」
 一瞬唇を離してそう言うと、また塞ぎながらわたしの手を掴みスカートの裾を握らせる。いつの間に脱力していたのだろう。まだ口付けは続いている。のに、彼はわたしの手を離すと、いきなり秘部に指をあてがってぐりぐりとやったので、わたしは口の中で悲鳴を上げたが、下着が濡れているような感覚はまだなかったのでほっとする。しかし彼が下着の隅から指を差し込み、割れ目に割って入った瞬間、堪えかねたようにどろっと愛液が垂れてきたので、いよいよわたしは死にたくなった。
「止まらないなあ、どうした? これは」
 知らぬ、と答えたが彼は返事をせず、一度指を引き抜き、割れ目を音をたてるようにくちくち擦り、よく濡らしたその指を、つぷりと入れ直してくる。吸い込まれるようにわたしの中へ滑らかに入りこませた指を、内壁を引っ掻くようにずるずると出し入れしてくる。
「う、い、ふあ、ああ……」
「普段から想像もつかないような顔をしているぞ、騎士王よ」
「馬鹿な……ことを、いあ」
 ぐちゅりぐちゅりと膣が緩やかに侵食され、わたしはびくびく体を震わせながら不意に、何か漏れそうだと思った。危機感を覚え、待って、と彼に訴えようとする。しかしその前に彼が指を引き抜いた。安堵すると同時にもどかしさを覚えていたら、彼は突然わたしの膝裏を掬い柔らかく抱き止めると、石段を上って社の裏すぐにある林の茂みに転がし、何も言わずに下着を抜き取って、わたしに口を挟ませる隙を与えないまま挿入してきた。躊躇いのない一突きに、わたしは思わず悲鳴を上げる。正常位の重み。
「ひ、いい、あ、あ、やめ……」
「ん? あれだけ物欲しそうな顔をしていたのにか?」
「していない、断じてっ……ア、んんん」
 彼の顔が近付いてくるのを止めようと肩を押さえようとしたが、うまく力が入らなくて、頬から耳にかけて手を添えられると、閉じたわたしの唇をべろりと舐めてそれから塞がれる。同時にゆっくり引き抜いて、ずんと突くのを数度繰り返すと、少し乱暴なぐらいの加減で彼は抽迭した。結合部からぐぽ、ぐちゅ、ばつん、と水の音と肉のぶつかる音がする。わたしは行き場をなくした手を、その繋がった場所に伸ばしてみた。熱い。彼がわたしの上で笑った。
「見ろ」
 彼は体を起こしわたしの足を高く持ち上げると、結合部を見せつけてきた。わたしは悲鳴を上げて目を閉じたが、言うことを聞けと言われ、約束を思い出し仕方なく目を開ける。目前の、おぞましいほどに凶悪な陰茎が、わたしの膣をいっぱいに広げて摩擦している事実に恐怖すると同時に、認めたくはないが興奮してしまったわたしがいた。
「いい顔をするではないか、騎士王よ。お前が望むなら、何度でも抱いてやる」
「いや、やらあ……」
 呂律が回らないだなんて経験は初めてである。彼はこなれてきたわたしの膣に多少の無理は可能だと知ったのか、ずぶずぶ奥を抉るように打ち付けた。膣に意識がいって無意識に彼を締め付ける。わたしはそれで余計に彼の形をはっきり感じて、どうしようもないくらい気持ちいいと思った。彼の手が陰核を扱き、わたしはあー、あー、とだらしない声を上げて気をやってしまった。
「……う、うあ! あ」
 しかし片足を上げられ俯せにさせられると、さっきよりも激しく打ち付けられ意識を引き戻される。ばつんばつんと強く穿たれて、わたしは声を出した。
「い、いう、う! んう、あ」
 気をやったばかりだったので、頭がどろどろとしてうまくものを考えられず、気持ちよさが脳髄を直撃する。むしろ彼を感じすぎて辛いと思えるほどだった。
「セイバー、我はな、お前を思うように突いて、お前の中を精液で満たしてやったら、どうなるのだろうと考えていたのだ。その時はどのような声で鳴くのだろうとな、この我がだぞ、想像していた」
 奥深くのいいところをずんずん突かれ、わたしの腰が引けるのを、彼は逃がすまいと追いたてる。わたしの舌が唇の端から垂れている。
「そ……んな、下劣な、あ、ことを、ん、かんがえるな……っ!」
「セイバー、いくぞ」
「え、あ! やめ、あ、あああ!」
 彼の陰茎がびくびくと波打っているのを感じて、なかで出されてしまっていると薄れていく意識の中、ぼんやり思った。



 足の間が冷たくてねたつく。拭えるものがなにもない。わたしは死んでしまったのではないかと思えるほど快楽に没頭していたらしく、意識を取り戻したときには空はとうに藍色と黒色の中間だった。慌てて濡れた気持ち悪い下着を履き、すっかりあらゆるものに汚されてしまった洋服をスーツに着替え、横でにやにやと笑う彼を睨み付けると、まだ何かわたしに命令する気か、と言った。
「いや? お前も疲れただろうからな、もう良いぞ、送ってやる」
「結構だ」
 彼はふふんと笑うと、駄目だと言った。
「では最後の命令だ。手を貸せ。送ってやる」
 わたしが眉間に皺を寄せつつ渋々手を出すと、彼は満足げにわたしの手を取って立ち上がせる。そして今日は実に良い日だったと言うので、わたしはわたしがかわいそうでならなかった。




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